2024.9.24

「ぼくのお日さま」奥山大史監督の舞台挨拶付き試写会&映像セミナーレポート

雪の降る街を舞台に吃音のあるアイスホッケーが苦手な男の子・タクヤとフィギュアスケートに励む女の子・さくら、元フィギュアスケート選手のコーチ・荒川が紡ぎ出す、淡くて切ない恋と成長の物語「ぼくのお日さま」が9月13日に公開しました。本作は、UHB北海道文化放送がロケコーディネートなどで制作参加し北海道でほぼ撮影した作品。脚本、撮影、編集を担った奥山大史監督が北海道で行った舞台挨拶、映像セミナーの様子を映画の魅力と共にSASARU movie編集部がレポートします。

奥山大史監督が語る作品の舞台裏

キャストの皆さんを含め、ご自身にとっても北海道が思い出いっぱいの場所になったと語る奥山監督。舞台挨拶では、本作が生まれたきっかけや北海道のロケ地、そして知られざる舞台裏について教えてくれました。

---まず、本作の企画を立ち上げたきっかけとエンディングで印象的だったハンバート ハンバートの楽曲『ぼくのお日さま』との出会いについて教えてください。

子どもの頃、7年くらいフィギュアスケートを習っていたんですよ。選手を目指していた姉にくっついて...。大人になって前作の「ぼくはイエス様が嫌い」を製作したんですが、その時に自分の実体験をベースに映画を作って納得のできる作品ができたので同じような作り方ができないかなと考えていた時に、フィギュアスケートが最初に浮かんで、ただそれを映像化するだけだと思い出再現ビデオになってしまうなと悩んでいたんです。
2020年のコロナ禍の時くらいで、映像の仕事も止まっていて掃除をしたり音楽を聴き続けていた時にハンバート ハンバートの『ぼくのお日さま』に出会ってすごく良い曲だなと思いました。コロナ禍で鬱屈とした気持ちだったり、ちょっとした孤独だったり、社会との距離感っていうのにとても寄り添ってくれたような気がして繰り返し聴いていました。
毎日聴いてるうちに、書いていたタクヤが主人公のフィギュアスケートに関する映画のプロット(映画のあらすじ)があって、それがどんどん『ぼくのお日さま』に引き寄せられていきました。
 
---フィギュアスケートがモチーフになっていますが、これは監督自身の経験がきっかけになっているのでしょうか。

そうですね。基本的にフィギュアスケートをやっていたという設定以外はこの物語に関するストーリーは全てこの映画のための創作だなと思ってます。
自分にとって、さくらのような存在はいなかったですし、習っていたコーチも女性の先生で、アイスダンスを習ったこともないです。
ただ、さくらが踊っているのをいいな、きれいだなって思って見とれる姿だったり、スケートを滑ってたらホッケー少年たちからバカにされ、揶揄されるような描写っていうのは自分の経験の中にある記憶の断片を再現したものにはなるので、そういった意味では自分の実体験というのがかなり反映されている映画だなと思いますね。

 

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

---この映画を見ていて、フィギュアスケートを通して孤独な3人が近づき、良い雰囲気になっていく様子がセリフではなく動きで描かれているような気がしたのですが、どういう狙いだったのでしょうか?

ポスターに写っている3人の三角関係で紡がれる映画ですが、その三角関係がアイスダンスという2人でペアを組む競技が入ってくることで、2対1になる瞬間が出てくるというか...。
それは単純に2対1でバチバチするわけではなくて、その2人を見守る1人だったり、今度は別の2人が教えて教わってて、というところを1人が嫉妬して見ていたりとか、2対1の構図が作りやすくなるんじゃないかなと思って、1人が1人ずつをシングルで教えるんじゃなくて、1人が2人を教えるという形が作れたらなと思ってアイスダンスを取り入れました。

いざ撮ってみて思ったのは、遠い存在だったさくらがタクヤにとってぐっと近くにやってきて、しかも手を添えなくちゃいけない。そういった意味でも観てる人がちょっとだけドキドキしたり、自分がドキドキした経験を思い出したりする効果もあったので、アイスダンスを取り入れたのが正解だったなと思ってます。

 
---この温かい作品は、北海道が非常に大きな影響・効果を与えているんじゃないかと思うのですが、北海道をロケ地にしたきっかけを教えて頂けますか?

飛行機や船でスタッフみんなが移動するので、宿泊や食事のことなどを考えるとこの規模の映画で北海道をロケ地にするのはなかなか難しいのですが、どうしても僕が凍った湖の上でスケートを滑るシーンを撮りたかったんですよね。このシーンを一番大切に撮りたくて、どこに行けばいいだろうとリサーチをしたら恐らく北海道しかないだろうという結論に至りました。
シナリオを書く前の段階で一度ロケ地になりそうな場所を探しに行くことにしまして、そこで短編映像を撮ったことがある苫小牧市のウトナイ湖の近くにイメージに近い湖があったので、そこなら冬に凍ると聞いて撮影しようとなりました。ここを撮影地にするなら北海道で全編撮ろうということになり、製作陣も含めて北海道で撮る覚悟が決まりましたね。
ぼくのお日さま場面写真

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

奥山監督に聞く!来場者によるQ&Aコーナー

----とても温かい映画でした。気になった点としては、時代設定です。この時代設定にされた理由とさくらの衣装の色が序盤からアイスダンスをしている時に青からピンクに変わっていたのが気になっているので理由を教えてください。

制作スタッフで共有していたのは2001年で、設定しようという風に、裏では設定はしていました。携帯電話やカップラーメンのパッケージは2001年に合わせています。意図としては自分がスケートを習っていた時代というのがあります。
現代で描こうとすると、羽生選手や宇野選手などの影響もあって男の子のフィギュアスケート競技人口が増えているのもあり男女半々ぐらいなんです。9対1くらいで男の子はなかなかいなかった当時のフィギュアスケートを描きたいというか、あの頃しか描けないという気持ちもありました。セクシャリティの捉え方も現代より少し昔の描き方で社会の目を現代ではない更に都会でもないところで描きたかったというところで少し昔の時代設定にしました。
 
さくらのスカートの色は意図していませんでしたが、イメージカラーを決めようと話をしていました。わかりやすいのはポスターですが、さくらはピンクや赤などの暖かい色でタクヤが青や緑、荒川先生が紺や黒ですね。イメージカラーを分けていって最初は安定していなくてさくらも青を着ていたりしていますが、3人が寄り添った時に完全にテーマカラーに一回なって、でも関係がほどけていくとともに、その色もあまり関係なくなっていくみたいな流れを衣装に関しては作れたらと意識して作っていきました。
 
ぼくのお日さま場面写真

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

ぼくのお日さま場面写真

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

---さくらがフィギュアスケートを滑るシーンについて質問です。普段テレビで見るとライティングが当たっているものが多いと思うのですが、今回は自然光だったように感じました。自然光で撮ろうと思ってリンクを選んだのでしょうか?

スケートリンクって、僕が子どもの頃に習ってたリンクや大会で見るリンクも基本的に窓がないですよね。外光が入らないリンクが多いと思います。
それは、やっぱり氷が溶けにくいようにするためですよね。でも、そういうところで撮ってしまうと、いわゆる競技映像っぽいものになってしまったり、窓がなくて上から蛍光灯があたってという画だと光がフラットになってしまうので...。そうではなくて少し寓話的なスケートリンクで「こんな光入ってていいの?」って、リンクを知っている人だと思ってしまうぐらい光を入れたかったんですね。
そういうリンクをひたすら探していきました。
それが可能だとすると、夏はプール、冬はスケートリンクだったり、夏はフットサル場にしていて、冬はリンクにしているっていう通年スケートリンクではないところを探していって、岩手にまさにイメージにぴったりのリンクがあったので、そこで撮らせてもらうことにしました。
 
窓はあるんですけど、やっぱり氷が溶けないような窓でした。
山が近くて、お昼を過ぎるとすぐ太陽が山に隠れてしまうので日差しは全然入ってこないんですね。でも、せっかく窓があるし、光を入れ込みたかったので、照明を持っていきました。なるべく照明を自然光に見せるために窓と同じ数の照明を持っていくしかないんですね。
やっぱりあの窓から入っているのにこっちの窓から入っていないとなると、映像を撮ったことがない人でも作ってるなとわかってしまうものなので、窓の個数分の大きい照明を持っていって、スケートリンクの外から入れ込みました。
照明なので逆にどんなに時間をかけても光の角度は変わらないですし、陰ったりもしないので逆にこのシーンはすごく夕方にしようとか、朝っぽい光にしようっていうような調整ができたのはとても良かったですね。

一番最後にさくらが月の光を1人で滑っているシーンは、窓にいろんな色のカラーフィルターが貼ってあるんです。リンクがだんだん寒さが和らいできて、光が入ってきて暖かくなってくると、氷が溶けないようにカラーパネルみたいなのを貼って光が入りづらいようにしていて、いいなと思ったので裏設定として最後にさくらが滑っている春のシーンだけ貼ってある流れにしました。
ぼくのお日さま場面写真

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

「ぼくのお日さま」北海道凱旋セミナー奥山監督に聞く『映像の世界』

8/29に「ぼくのお日さま」の製作の裏側や北海道ロケーションの魅力について奥山監督のお話を聞くことができるセミナーが札幌フィルムコミッション主催、UHB北海道文化放送の企画進行で開催されました。
その様子と映画の魅力をレポートします。

---東京出身の奥山監督が、なぜ雪の街を撮ろうと思われたのでしょうか?
前作の「僕はイエス様が嫌い」にも雪のシーンがあるんですが、偶然だったんですよね。卒業制作でここまでに撮らない編集が間に合わなくなるというタイミングで雪が積もっているけど、まぁいいかって感じで撮ったら、結果すごくよかったんですよね。雪が積もっていると余白が作りやすいのが良いんですよね。

僕は撮る時に構図の作り方としてどうやって余白を作るかというのをすごく意識していて、東京だと、物が多いのでどう切り取っても余白が作りづらいという感覚があって、そうなった時に雪が降ってくると同じ景色でも情報量がグッと減って撮りたいものがはっきりしてくるので、そういった意味で雪を撮るのが好きですね。
同じ景色を雪が降ってないシーンと降ったシーンで撮って時間の経過を描きたいなと思っていました。雪が降ってきた描写と雪が深く積もったシーンで何週間か経ったんだなという時間の経過も描けますし、そういう点が雪は映画的だなと思っています。
 
---今回、監督が描きたかった田舎町を探すためにニセコから後志、岩内、富良野・美瑛を監督が車でぐるぐる回って赤井川や小樽を中心に架空の街を作るという流れになりましたが、北海道がロケ地の他作品を見ながら、ご自身で独自のものは何かを探っていたと思います。その辺りを詳しく教えてください。

北海道ロケの映画も見ましたし、何か良い景色がないか探すというよりは、まだ撮られていない景色を探したいという気持ちが強かったです。
話に上がっていたのがNetflix作品の「First Love」。面白かったですし、綺麗な景色を継ぎはぎしているという感じでドラマとして見るのはとても美しいんですが、今回の映画のサイズ感でいうとガイドブックに載ってきそうな景色よりも、こんな場所あるんだ、どこなんだろうというふと気になる美しくて身近にありそうだけどない景色を探したいなと思っていました。
---最終的になぜ余市や赤井川、小樽で撮影をしようと思ったのかを聞かせてください。

脚本を書く前に行うシナリオハンティングというものをよくするんですが、目的としては場所がイメージできるとストーリーが湧いてくると言いますか、脚本を書くための旅なんですよね。ちょっと車で移動するだけで人の生きづいている具合といいますか...例えば小樽で見た景色とそこから車で30分走らせた余市、その隣の赤井川の山の景色など全然違う景色になっているのがおもしろいなと思いました。そして、メインとなるタクヤが住むスケートリンクのある街と山を越えるとさくらが住む少し都会の街の2つを作りたいなと思いました。
---具体的なシーンについてお話をお聞きしたいのですが、苫小牧の湖のシーンが一番大事だったんですよね?

凍った湖でスケートをするシーンを考えていたんです。そういうシーンを見たことがあったのですが全部海外なんですよ。ホームアローンは人工だし、日本にそんな景色があるのかなと思いながら、とりあえずプロットを書いたんですよね。

荒川先生だけが知っている秘密の場所のようなところを撮りたい。でも難しいだろうなと思いながら書いていたんですが、完成するころには大事なシーンになっていて、何としても撮りたいシーンになりましたね。
じゃあどこで撮ろうかとなった時に色々と相談して北海道でということになり最初に思い浮かんだのが苫小牧でした。苫小牧は、以前ウトナイ湖の撮影をしたことがあっったんですよ。それでウトナイ湖は、どうだろうと思ったのですが、陸に近い所は凍っていたが、その他が溶けていて...それで苫小牧市をぐるぐる回っている時に、そういえば色々なサイズ感の湖があったなと思って探しました。
ただ、当然なんですが湖の上に雪が積もってるんですよ。スケートできる湖面に着くまでも積もっているのでどうしようという問題もありました。ただ苫小牧市は海が近くて割と風が吹いているので、そんなに雪が積もらないんですよね。それで苫小牧の湖を撮影地にしました。
映画では自然に湖面が出ているように見せていますが、実は人の手で全て除雪をしています。建設会社の人が除雪をしてくれた湖面なんですよ。除雪しただけでは滑ることができないので水をまいて氷を磨くということもして頂きました。苫小牧市では小学校にリンクを作るので、この湖もリンクにできるということで地元の方々に手伝って頂いて実現したシーンですね。
ぼくのお日さま場面写真

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

---奥山監督が撮ると北欧の映画のような雰囲気になりますよね。他にも小樽の海や石狩なども撮影しましたが、中でも特に石狩の景色を気に入られてましたよね?
円形の旧石狩小学校で撮影した屋上のシーンはお芝居もすごく良いので見てほしいです。このシーンは陽を感じたかったんですが、実際は曇天で…ある時に光が入ってきてキレイだったので使いました。

---札幌では真駒内セキスイハイムアイスアリーナで撮影していますよね。非常にレトロ感がありましたが、この辺りはいかがですか?

真駒内セキスイハイムアイスアリーナは、行った瞬間にここがバッチテスト(大会に出場するための資格を取得するテスト)の会場だと思いました。普段練習している会場とは差を付けたかったんですよね。外観も絶妙で良いんですよね。

---改めて北海道の景色をどう思ったか教えて頂けますか?

東京で生まれ育った自分からすると北海道の寒さと厳しさって驚愕するんですけど、厳しい寒さがあるのに、カメラを通すと温かみが景色にあるんですよね。雪が積もって光が入る瞬間とかすごく温かみがあります。それが特徴だなと撮って改めて思いました。

「ぼくのお日さま」作品情報

奥山監督の舞台挨拶・映像セミナーでは、映画の魅力はもちろん北海道ロケ地についても詳しくお話を聞くことができました。知られざる北海道の美しい風景の数々と3人が紡ぎ出す淡く切ない物語は、ぜひ劇場で楽しむのがおすすめですよ。


監督・撮影・脚本・編集:奥山大史

主題歌:ハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」

出演:越山敬逹、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、山田真歩、潤浩 ほか

製作:「ぼくのお日さま」製作委員会

製作幹事:朝日新聞社

企画・制作・配給:東京テアトル

共同製作:COMME DES CINE'MAS制作プロダクション:RIKIプロジェクト

助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会

公式サイト:https://bokunoohisama.com/
 

奥山大史監督が語る作品の舞台裏

キャストの皆さんを含め、ご自身にとっても北海道が思い出いっぱいの場所になったと語る奥山監督。舞台挨拶では、本作が生まれたきっかけや北海道のロケ地、そして知られざる舞台裏について教えてくれました。

---まず、本作の企画を立ち上げたきっかけとエンディングで印象的だったハンバート ハンバートの楽曲『ぼくのお日さま』との出会いについて教えてください。

子どもの頃、7年くらいフィギュアスケートを習っていたんですよ。選手を目指していた姉にくっついて...。大人になって前作の「ぼくはイエス様が嫌い」を製作したんですが、その時に自分の実体験をベースに映画を作って納得のできる作品ができたので同じような作り方ができないかなと考えていた時に、フィギュアスケートが最初に浮かんで、ただそれを映像化するだけだと思い出再現ビデオになってしまうなと悩んでいたんです。
2020年のコロナ禍の時くらいで、映像の仕事も止まっていて掃除をしたり音楽を聴き続けていた時にハンバート ハンバートの『ぼくのお日さま』に出会ってすごく良い曲だなと思いました。コロナ禍で鬱屈とした気持ちだったり、ちょっとした孤独だったり、社会との距離感っていうのにとても寄り添ってくれたような気がして繰り返し聴いていました。
毎日聴いてるうちに、書いていたタクヤが主人公のフィギュアスケートに関する映画のプロット(映画のあらすじ)があって、それがどんどん『ぼくのお日さま』に引き寄せられていきました。
 
---フィギュアスケートがモチーフになっていますが、これは監督自身の経験がきっかけになっているのでしょうか。

そうですね。基本的にフィギュアスケートをやっていたという設定以外はこの物語に関するストーリーは全てこの映画のための創作だなと思ってます。
自分にとって、さくらのような存在はいなかったですし、習っていたコーチも女性の先生で、アイスダンスを習ったこともないです。
ただ、さくらが踊っているのをいいな、きれいだなって思って見とれる姿だったり、スケートを滑ってたらホッケー少年たちからバカにされ、揶揄されるような描写っていうのは自分の経験の中にある記憶の断片を再現したものにはなるので、そういった意味では自分の実体験というのがかなり反映されている映画だなと思いますね。

 

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

---この映画を見ていて、フィギュアスケートを通して孤独な3人が近づき、良い雰囲気になっていく様子がセリフではなく動きで描かれているような気がしたのですが、どういう狙いだったのでしょうか?

ポスターに写っている3人の三角関係で紡がれる映画ですが、その三角関係がアイスダンスという2人でペアを組む競技が入ってくることで、2対1になる瞬間が出てくるというか...。
それは単純に2対1でバチバチするわけではなくて、その2人を見守る1人だったり、今度は別の2人が教えて教わってて、というところを1人が嫉妬して見ていたりとか、2対1の構図が作りやすくなるんじゃないかなと思って、1人が1人ずつをシングルで教えるんじゃなくて、1人が2人を教えるという形が作れたらなと思ってアイスダンスを取り入れました。

いざ撮ってみて思ったのは、遠い存在だったさくらがタクヤにとってぐっと近くにやってきて、しかも手を添えなくちゃいけない。そういった意味でも観てる人がちょっとだけドキドキしたり、自分がドキドキした経験を思い出したりする効果もあったので、アイスダンスを取り入れたのが正解だったなと思ってます。

 
ぼくのお日さま場面写真

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

---この温かい作品は、北海道が非常に大きな影響・効果を与えているんじゃないかと思うのですが、北海道をロケ地にしたきっかけを教えて頂けますか?

飛行機や船でスタッフみんなが移動するので、宿泊や食事のことなどを考えるとこの規模の映画で北海道をロケ地にするのはなかなか難しいのですが、どうしても僕が凍った湖の上でスケートを滑るシーンを撮りたかったんですよね。このシーンを一番大切に撮りたくて、どこに行けばいいだろうとリサーチをしたら恐らく北海道しかないだろうという結論に至りました。
シナリオを書く前の段階で一度ロケ地になりそうな場所を探しに行くことにしまして、そこで短編映像を撮ったことがある苫小牧市のウトナイ湖の近くにイメージに近い湖があったので、そこなら冬に凍ると聞いて撮影しようとなりました。ここを撮影地にするなら北海道で全編撮ろうということになり、製作陣も含めて北海道で撮る覚悟が決まりましたね。

奥山監督に聞く!来場者によるQ&Aコーナー

----とても温かい映画でした。気になった点としては、時代設定です。この時代設定にされた理由とさくらの衣装の色が序盤からアイスダンスをしている時に青からピンクに変わっていたのが気になっているので理由を教えてください。

制作スタッフで共有していたのは2001年で、設定しようという風に、裏では設定はしていました。携帯電話やカップラーメンのパッケージは2001年に合わせています。意図としては自分がスケートを習っていた時代というのがあります。
現代で描こうとすると、羽生選手や宇野選手などの影響もあって男の子のフィギュアスケート競技人口が増えているのもあり男女半々ぐらいなんです。9対1くらいで男の子はなかなかいなかった当時のフィギュアスケートを描きたいというか、あの頃しか描けないという気持ちもありました。セクシャリティの捉え方も現代より少し昔の描き方で社会の目を現代ではない更に都会でもないところで描きたかったというところで少し昔の時代設定にしました。
 
ぼくのお日さま場面写真

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

さくらのスカートの色は意図していませんでしたが、イメージカラーを決めようと話をしていました。わかりやすいのはポスターですが、さくらはピンクや赤などの暖かい色でタクヤが青や緑、荒川先生が紺や黒ですね。イメージカラーを分けていって最初は安定していなくてさくらも青を着ていたりしていますが、3人が寄り添った時に完全にテーマカラーに一回なって、でも関係がほどけていくとともに、その色もあまり関係なくなっていくみたいな流れを衣装に関しては作れたらと意識して作っていきました。
 
ぼくのお日さま場面写真

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

---さくらがフィギュアスケートを滑るシーンについて質問です。普段テレビで見るとライティングが当たっているものが多いと思うのですが、今回は自然光だったように感じました。自然光で撮ろうと思ってリンクを選んだのでしょうか?

スケートリンクって、僕が子どもの頃に習ってたリンクや大会で見るリンクも基本的に窓がないですよね。外光が入らないリンクが多いと思います。
それは、やっぱり氷が溶けにくいようにするためですよね。でも、そういうところで撮ってしまうと、いわゆる競技映像っぽいものになってしまったり、窓がなくて上から蛍光灯があたってという画だと光がフラットになってしまうので...。そうではなくて少し寓話的なスケートリンクで「こんな光入ってていいの?」って、リンクを知っている人だと思ってしまうぐらい光を入れたかったんですね。
そういうリンクをひたすら探していきました。
それが可能だとすると、夏はプール、冬はスケートリンクだったり、夏はフットサル場にしていて、冬はリンクにしているっていう通年スケートリンクではないところを探していって、岩手にまさにイメージにぴったりのリンクがあったので、そこで撮らせてもらうことにしました。
 
ぼくのお日さま場面写真

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

窓はあるんですけど、やっぱり氷が溶けないような窓でした。
山が近くて、お昼を過ぎるとすぐ太陽が山に隠れてしまうので日差しは全然入ってこないんですね。でも、せっかく窓があるし、光を入れ込みたかったので、照明を持っていきました。なるべく照明を自然光に見せるために窓と同じ数の照明を持っていくしかないんですね。
やっぱりあの窓から入っているのにこっちの窓から入っていないとなると、映像を撮ったことがない人でも作ってるなとわかってしまうものなので、窓の個数分の大きい照明を持っていって、スケートリンクの外から入れ込みました。
照明なので逆にどんなに時間をかけても光の角度は変わらないですし、陰ったりもしないので逆にこのシーンはすごく夕方にしようとか、朝っぽい光にしようっていうような調整ができたのはとても良かったですね。

一番最後にさくらが月の光を1人で滑っているシーンは、窓にいろんな色のカラーフィルターが貼ってあるんです。リンクがだんだん寒さが和らいできて、光が入ってきて暖かくなってくると、氷が溶けないようにカラーパネルみたいなのを貼って光が入りづらいようにしていて、いいなと思ったので裏設定として最後にさくらが滑っている春のシーンだけ貼ってある流れにしました。

「ぼくのお日さま」北海道凱旋セミナー奥山監督に聞く『映像の世界』

8/29に「ぼくのお日さま」の製作の裏側や北海道ロケーションの魅力について奥山監督のお話を聞くことができるセミナーが札幌フィルムコミッション主催、UHB北海道文化放送の企画進行で開催されました。
その様子と映画の魅力をレポートします。

---東京出身の奥山監督が、なぜ雪の街を撮ろうと思われたのでしょうか?
前作の「僕はイエス様が嫌い」にも雪のシーンがあるんですが、偶然だったんですよね。卒業制作でここまでに撮らない編集が間に合わなくなるというタイミングで雪が積もっているけど、まぁいいかって感じで撮ったら、結果すごくよかったんですよね。雪が積もっていると余白が作りやすいのが良いんですよね。

僕は撮る時に構図の作り方としてどうやって余白を作るかというのをすごく意識していて、東京だと、物が多いのでどう切り取っても余白が作りづらいという感覚があって、そうなった時に雪が降ってくると同じ景色でも情報量がグッと減って撮りたいものがはっきりしてくるので、そういった意味で雪を撮るのが好きですね。
同じ景色を雪が降ってないシーンと降ったシーンで撮って時間の経過を描きたいなと思っていました。雪が降ってきた描写と雪が深く積もったシーンで何週間か経ったんだなという時間の経過も描けますし、そういう点が雪は映画的だなと思っています。
 
---今回、監督が描きたかった田舎町を探すためにニセコから後志、岩内、富良野・美瑛を監督が車でぐるぐる回って赤井川や小樽を中心に架空の街を作るという流れになりましたが、北海道がロケ地の他作品を見ながら、ご自身で独自のものは何かを探っていたと思います。その辺りを詳しく教えてください。

北海道ロケの映画も見ましたし、何か良い景色がないか探すというよりは、まだ撮られていない景色を探したいという気持ちが強かったです。
話に上がっていたのがNetflix作品の「First Love」。面白かったですし、綺麗な景色を継ぎはぎしているという感じでドラマとして見るのはとても美しいんですが、今回の映画のサイズ感でいうとガイドブックに載ってきそうな景色よりも、こんな場所あるんだ、どこなんだろうというふと気になる美しくて身近にありそうだけどない景色を探したいなと思っていました。
---最終的になぜ余市や赤井川、小樽で撮影をしようと思ったのかを聞かせてください。

脚本を書く前に行うシナリオハンティングというものをよくするんですが、目的としては場所がイメージできるとストーリーが湧いてくると言いますか、脚本を書くための旅なんですよね。ちょっと車で移動するだけで人の生きづいている具合といいますか...例えば小樽で見た景色とそこから車で30分走らせた余市、その隣の赤井川の山の景色など全然違う景色になっているのがおもしろいなと思いました。そして、メインとなるタクヤが住むスケートリンクのある街と山を越えるとさくらが住む少し都会の街の2つを作りたいなと思いました。
ぼくのお日さま場面写真

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINE'MAS

---具体的なシーンについてお話をお聞きしたいのですが、苫小牧の湖のシーンが一番大事だったんですよね?

凍った湖でスケートをするシーンを考えていたんです。そういうシーンを見たことがあったのですが全部海外なんですよ。ホームアローンは人工だし、日本にそんな景色があるのかなと思いながら、とりあえずプロットを書いたんですよね。

荒川先生だけが知っている秘密の場所のようなところを撮りたい。でも難しいだろうなと思いながら書いていたんですが、完成するころには大事なシーンになっていて、何としても撮りたいシーンになりましたね。
じゃあどこで撮ろうかとなった時に色々と相談して北海道でということになり最初に思い浮かんだのが苫小牧でした。苫小牧は、以前ウトナイ湖の撮影をしたことがあっったんですよ。それでウトナイ湖は、どうだろうと思ったのですが、陸に近い所は凍っていたが、その他が溶けていて...それで苫小牧市をぐるぐる回っている時に、そういえば色々なサイズ感の湖があったなと思って探しました。
ただ、当然なんですが湖の上に雪が積もってるんですよ。スケートできる湖面に着くまでも積もっているのでどうしようという問題もありました。ただ苫小牧市は海が近くて割と風が吹いているので、そんなに雪が積もらないんですよね。それで苫小牧の湖を撮影地にしました。
映画では自然に湖面が出ているように見せていますが、実は人の手で全て除雪をしています。建設会社の人が除雪をしてくれた湖面なんですよ。除雪しただけでは滑ることができないので水をまいて氷を磨くということもして頂きました。苫小牧市では小学校にリンクを作るので、この湖もリンクにできるということで地元の方々に手伝って頂いて実現したシーンですね。
---奥山監督が撮ると北欧の映画のような雰囲気になりますよね。他にも小樽の海や石狩なども撮影しましたが、中でも特に石狩の景色を気に入られてましたよね?
円形の旧石狩小学校で撮影した屋上のシーンはお芝居もすごく良いので見てほしいです。このシーンは陽を感じたかったんですが、実際は曇天で…ある時に光が入ってきてキレイだったので使いました。

---札幌では真駒内セキスイハイムアイスアリーナで撮影していますよね。非常にレトロ感がありましたが、この辺りはいかがですか?

真駒内セキスイハイムアイスアリーナは、行った瞬間にここがバッチテスト(大会に出場するための資格を取得するテスト)の会場だと思いました。普段練習している会場とは差を付けたかったんですよね。外観も絶妙で良いんですよね。

---改めて北海道の景色をどう思ったか教えて頂けますか?

東京で生まれ育った自分からすると北海道の寒さと厳しさって驚愕するんですけど、厳しい寒さがあるのに、カメラを通すと温かみが景色にあるんですよね。雪が積もって光が入る瞬間とかすごく温かみがあります。それが特徴だなと撮って改めて思いました。

「ぼくのお日さま」作品情報

奥山監督の舞台挨拶・映像セミナーでは、映画の魅力はもちろん北海道ロケ地についても詳しくお話を聞くことができました。知られざる北海道の美しい風景の数々と3人が紡ぎ出す淡く切ない物語は、ぜひ劇場で楽しむのがおすすめですよ。


監督・撮影・脚本・編集:奥山大史

主題歌:ハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」

出演:越山敬逹、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、山田真歩、潤浩 ほか

製作:「ぼくのお日さま」製作委員会

製作幹事:朝日新聞社

企画・制作・配給:東京テアトル

共同製作:COMME DES CINE'MAS制作プロダクション:RIKIプロジェクト

助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会

公式サイト:https://bokunoohisama.com/
 

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ACIDE/アシッド

2024-08-30

ある日突然、空からすべてを溶かし尽くす強烈な酸性雨が降り出した近未来のフランスを舞台に贈るサバイバル・スリラー。主演は「冬時間のパリ」「ベル・エポックでもう一度」のギヨーム・カネ、共演にレティシア・ドッシュ、パションス・ミュシェンバック。監督は「群がり」のジュスト・フィリッポ。酸性雨の脅威から逃げようとパニックに陥る人々の姿と、混乱の中で懸命に生き延びる道を模索する一組の家族の運命をスリリングに描...