2024.9.9

『映画けいおん!』、『聲の形』を手がける山田尚子監督最新作『きみの色』インタビュー

「青春×音楽」の物語を得意とする、全世界が注目するアニメーション監督・山田尚子さんに、UHBアナウンサーの柴田平美がインタビュー。Mr.childrenが主題歌を描きおろし、”光”を題材に描いたという今作。運命に引き寄せられる3人がバンドを組む中で、音楽だけにとどまらない、高校生たちの心の動きを丁寧に美しく魅せる『きみの色』の世界についてお話を伺いました。

山田尚子監督インタビュー

―――完全オリジナルで長編最新作となる本作ですが、まずはこの映画が完成した今の気持ちから教えてください。
 
山田
:今回の作品はオリジナル作品だったので、本当に真っ白なところから作り上げていくと言うことでとても大変でした。寄りかかるところがなかったので、すごく難しいなと思う反面、まだ世の中に何もないものを組み立てていくという快感みたいなものがあって。大変なのと、とても楽しいのと両方の気持ちが入り混じっています。
 
 
―――監督の作品は、10代の子たちの心の機微が描かれているものが多いように感じます。物語やリアルな10代を描くためのアイデアのようなものはどのように生まれてくるのですか?
 
山田
:どうでしょう…。確かに10代の子を題材に描くこと多いんですけど、心の機微というか感情ってすごくフラットというか、一人の“人”としてずっと平等に培っていくもののような気がしていて。たまたま高校生を選んでいるけれども、人の心を描いているところではすごく普遍的な部分を選んでいるというのはあります。高校生ならではの子どもから大人になる瞬間というか、グラデーションの時期にすごく魅力を感じていながらも、“心を描く”という普遍的なものを描くという…。高校生になりきろうと思ってやっているわけではなく、“心を見る”ということをしているので、アイデアのきっかけとかは、“心”、“感情の動き”とかからですかね。高校生を描こう!としているのではなく“感情の動き”を描いてみたいなと思ったときにアイデアが出てくるかもしれません。
 
―――『映画 聲の形』や『リズの青い鳥』、拝見しました。本当に水彩画のような繊細で淡い色遣いが特徴的だなと感じているのですが、今回、映像化するうえで大切にしたことはどういうところですか?
 
山田
:今言っていただいたみたいに、本当に“色”の部分はこの作品にとってもすごく大事なコンセプトとしているので、やはり“キレイな色”っていうのは大切にこだわっていきたい部分でしたね。
 
―――その“キレイな色”というのは、どのように選択していったのでしょうか?
 
山田
:今回は色を描いていくうえで大切にしていたのが、“光”から生まれる色の現象というところだったので、プリズムだったりとか虹だったりとか、光から生まれている色の現象というところから色を選ぶというところがありました。やっぱり光を描いているので、どんどん色も淡さが出てくるし、その結果見ていて優しい気持ちになるような色味を選んでいくような形になっていきましたね。
 
―――この作品の主人公は、人が“色”で見える主人公ですよね。きみちゃんは青、ルイ君は緑のように。それぞれのキャラクターの色はどうやって決めたのですか?
 
山田
:今話していたみたいに、光に収束していくように描いていきたかったので、 “光の三原色”を題材にして3人に当てはめていったんです。今まさにこの部屋の中の光みたいに。(シャンデリアで光が三色に見える会場での取材でした。画像参照。)
 
―――この映画は、嫌な人が1人も出てこないというか、それぞれに悩みや葛藤などがありながらもほんわかとした世界が広がっていますよね。この世界観にも監督の意図や思いが込められているのでしょうか?
 
山田
:もう皆さん十分悩んでいるので、実生活ではね。悩んで悩んで悩んで、ずっと出口もないみたいなふうに毎日大変に過ごしているかなと思っているので、映画の中くらいは心地よくいてほしいという思いがあるかもしれません。人と人とのコミュニケーションによって、受け入れたことや受け入れてもらえた瞬間がすごくかけがえがないものと思っています。劇中の3人にも、少しでも自分の悩みの荷を下ろしてもらいたいという気持ちがあって、お互いを理解し合おうとする心の動きそのものを大切に描きたいなと思いました。
 
―――色もそうですし、心の中まで優しい世界観だなと思って観ていました。
そして、今回バンドを組むメインの3人の声優陣は、オーディションを行ったと聞きました。オーディションをはじめ、実際のアフレコ現場などを経た3人の印象を教えていただけますか?
 
山田
:オーディションして選ばせていただいたっていうのをすっかり忘れるぐらい、もう初めからこの3人に決まっていたんじゃないかなって思うくらいぴったりでした。録音ブースに入って3人で並んでる姿を見ていても、本当に画面から出てきちゃったんだろうかと思うくらいぴったり合っていたので、見ていてすごく楽しかったです。
主人公のトツ子は、たくさんいろんなシーンがあって鼻血を出したり倒れたり、いろんなところをくるくる回ったりしているんですけど、それに合わせて鈴川紗由さんも一緒にくるくる回ったり鼻にティッシュを詰めたりしていて。本当にまさに作中のトツ子と同じことをしながら芝居をしてくださっていて、見ているのがすごく楽しくて心に残っていますね。
 
 ―――予告や本編を観ていて、私も“水金地火木土天アーメン”というフレーズが離れないのですが、あの曲の誕生秘話などはありますか?
 
山田
:作品を作るにあたって企画書を書くのですが、最初に企画書を書いている段階から“日暮トツ子”というキャラクターを組み立てていって、彼女が彼女の目線で生み出すような楽曲はこういった楽曲です!というプレゼンテーションのために生まれた言葉でした。「“水金地火木土天アーメン”っていう言葉を組み合わせるようなセンスの持ち主です」というところから始まって。そのまま作業が進み、日暮トツ子ちゃんがどんどん出来上がっていく中であの歌詞も生まれてくるんですけども、ポンとふってくる感じでしたね。トツ子が書くならこんな歌詞だろうな…みたいな感じですごくすんなり、トツ子がポンと書かせてくれました。
 
―――主題歌は、Mr.Childrenの「in the pocket」。桜井さんが書き下ろしてくれた楽曲ということですが、初めて曲を聞いた時の感想を聞かせてください。
 
山田
:まごうことなきMr.Childrenだと。(笑)ああ、Mr.Childrenだと思いました。
彼らの奏でる未公開の曲を聴いているという、すごく不思議な感覚。『きみの色』という作品のために書き下ろしてくださったっていうことも、なかなか脳みそに伝わってこないぐらいびっくりしましたね。後からじっくり聴き直して、本当にこの作品に向けて桜井さんの目線で、彼ら(登場人物たち)を見て考えて書いてくださった曲なんだというのがじわじわ沁み込んできて感激しました。
―――すでに210の国と地域で配信や公開が予定されていますが、世界中の人たちに映画が届くことをどう感じていますか?また、映画を観た人にどのように感じて欲しいですか?
 
山田
:心の動きを描いているので、きっと心の動きというのは普遍的なものであって、海も超えると信じています。この作品が海を超えて海外の方に見ていただけるというのは本当に嬉しいことですし、自分も映画を観る立場の時に海外の映画をすごく楽しんで観るので、その逆のことが起こると思うとすごくワクワクしてしまいます。観た方は、どういった感情になるかとか、何を持って帰るかとかは本当に何でも良くて、観てくださった方それぞれに好きだなとか、自分に合わなかったなっていう感想だってもちろんあるとは思います。それでも何か、何でもいいので残っていたらすごく嬉しいですね。

ナルミのススメ。~『きみの色』~

一つひとつの質問に対してしっかりと考え、きっと宇宙のように広がる監督の頭の中の世界を、丁寧に言葉にして紡ぎ出してくださったのが印象的でした。10代の子たちが感じやすい葛藤や悩みを描きながらも、全世代の人々が感じる“心の動き”、“感情”を表現しているという山田監督。だからこそ、大人になった私たちが感じる、学生特有の甘酸っぱさに恥ずかしくなることなく観られる作品なのかなと。映画を観ていると、浄化されるような清々しさと温かさが心に満ちていきます。“光”をテーマに描かれたこの作品は、映像はもちろん、登場する人物たち全員が光のようで、キラキラと輝きを放っているのです。アニメだからこそ描けるパステルな淡い色遣いと漫画のようなタッチの繊細な絵に、心もふわりとほぐれていくような美しい世界観。粒だった音はまるで踊っているかのようで、そのリズムに合わせて心が一緒に弾む感覚。観ていてそんな楽しさがある映画でした。あの世界を全身で浴びる感覚を、劇場の大きなスクリーンでぜひ。

作品情報


(C)2024「きみの色」製作委員会


監督:山田尚子 (『映画 聲の形』『リズと青い鳥』)

声の出演:鈴川紗由 高石あかり 木戸大聖 やす子 悠木碧 寿美菜子 戸田恵子 新垣結衣
(※高石あかりさんの「高」は正式には「ハシゴの高」)

脚本:吉田玲子 (『猫の恩返し』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』)

主題歌:Mr.Children「in the pocket」(TOY'S FACTORY)

製作:『きみの色』製作委員会
配給:東宝
公開日:2024年8月30日(金)
公式サイト:https://kiminoiro.jp/

山田尚子監督インタビュー

―――完全オリジナルで長編最新作となる本作ですが、まずはこの映画が完成した今の気持ちから教えてください。
 
山田
:今回の作品はオリジナル作品だったので、本当に真っ白なところから作り上げていくと言うことでとても大変でした。寄りかかるところがなかったので、すごく難しいなと思う反面、まだ世の中に何もないものを組み立てていくという快感みたいなものがあって。大変なのと、とても楽しいのと両方の気持ちが入り混じっています。
 
 
―――監督の作品は、10代の子たちの心の機微が描かれているものが多いように感じます。物語やリアルな10代を描くためのアイデアのようなものはどのように生まれてくるのですか?
 
山田
:どうでしょう…。確かに10代の子を題材に描くこと多いんですけど、心の機微というか感情ってすごくフラットというか、一人の“人”としてずっと平等に培っていくもののような気がしていて。たまたま高校生を選んでいるけれども、人の心を描いているところではすごく普遍的な部分を選んでいるというのはあります。高校生ならではの子どもから大人になる瞬間というか、グラデーションの時期にすごく魅力を感じていながらも、“心を描く”という普遍的なものを描くという…。高校生になりきろうと思ってやっているわけではなく、“心を見る”ということをしているので、アイデアのきっかけとかは、“心”、“感情の動き”とかからですかね。高校生を描こう!としているのではなく“感情の動き”を描いてみたいなと思ったときにアイデアが出てくるかもしれません。
 
―――『映画 聲の形』や『リズの青い鳥』、拝見しました。本当に水彩画のような繊細で淡い色遣いが特徴的だなと感じているのですが、今回、映像化するうえで大切にしたことはどういうところですか?
 
山田
:今言っていただいたみたいに、本当に“色”の部分はこの作品にとってもすごく大事なコンセプトとしているので、やはり“キレイな色”っていうのは大切にこだわっていきたい部分でしたね。
 
―――その“キレイな色”というのは、どのように選択していったのでしょうか?
 
山田
:今回は色を描いていくうえで大切にしていたのが、“光”から生まれる色の現象というところだったので、プリズムだったりとか虹だったりとか、光から生まれている色の現象というところから色を選ぶというところがありました。やっぱり光を描いているので、どんどん色も淡さが出てくるし、その結果見ていて優しい気持ちになるような色味を選んでいくような形になっていきましたね。
 
―――この作品の主人公は、人が“色”で見える主人公ですよね。きみちゃんは青、ルイ君は緑のように。それぞれのキャラクターの色はどうやって決めたのですか?
 
山田
:今話していたみたいに、光に収束していくように描いていきたかったので、 “光の三原色”を題材にして3人に当てはめていったんです。今まさにこの部屋の中の光みたいに。(シャンデリアで光が三色に見える会場での取材でした。画像参照。)
 
―――この映画は、嫌な人が1人も出てこないというか、それぞれに悩みや葛藤などがありながらもほんわかとした世界が広がっていますよね。この世界観にも監督の意図や思いが込められているのでしょうか?
 
山田
:もう皆さん十分悩んでいるので、実生活ではね。悩んで悩んで悩んで、ずっと出口もないみたいなふうに毎日大変に過ごしているかなと思っているので、映画の中くらいは心地よくいてほしいという思いがあるかもしれません。人と人とのコミュニケーションによって、受け入れたことや受け入れてもらえた瞬間がすごくかけがえがないものと思っています。劇中の3人にも、少しでも自分の悩みの荷を下ろしてもらいたいという気持ちがあって、お互いを理解し合おうとする心の動きそのものを大切に描きたいなと思いました。
 
―――色もそうですし、心の中まで優しい世界観だなと思って観ていました。
そして、今回バンドを組むメインの3人の声優陣は、オーディションを行ったと聞きました。オーディションをはじめ、実際のアフレコ現場などを経た3人の印象を教えていただけますか?
 
山田
:オーディションして選ばせていただいたっていうのをすっかり忘れるぐらい、もう初めからこの3人に決まっていたんじゃないかなって思うくらいぴったりでした。録音ブースに入って3人で並んでる姿を見ていても、本当に画面から出てきちゃったんだろうかと思うくらいぴったり合っていたので、見ていてすごく楽しかったです。
主人公のトツ子は、たくさんいろんなシーンがあって鼻血を出したり倒れたり、いろんなところをくるくる回ったりしているんですけど、それに合わせて鈴川紗由さんも一緒にくるくる回ったり鼻にティッシュを詰めたりしていて。本当にまさに作中のトツ子と同じことをしながら芝居をしてくださっていて、見ているのがすごく楽しくて心に残っていますね。
 
 ―――予告や本編を観ていて、私も“水金地火木土天アーメン”というフレーズが離れないのですが、あの曲の誕生秘話などはありますか?
 
山田
:作品を作るにあたって企画書を書くのですが、最初に企画書を書いている段階から“日暮トツ子”というキャラクターを組み立てていって、彼女が彼女の目線で生み出すような楽曲はこういった楽曲です!というプレゼンテーションのために生まれた言葉でした。「“水金地火木土天アーメン”っていう言葉を組み合わせるようなセンスの持ち主です」というところから始まって。そのまま作業が進み、日暮トツ子ちゃんがどんどん出来上がっていく中であの歌詞も生まれてくるんですけども、ポンとふってくる感じでしたね。トツ子が書くならこんな歌詞だろうな…みたいな感じですごくすんなり、トツ子がポンと書かせてくれました。
 
―――主題歌は、Mr.Childrenの「in the pocket」。桜井さんが書き下ろしてくれた楽曲ということですが、初めて曲を聞いた時の感想を聞かせてください。
 
山田
:まごうことなきMr.Childrenだと。(笑)ああ、Mr.Childrenだと思いました。
彼らの奏でる未公開の曲を聴いているという、すごく不思議な感覚。『きみの色』という作品のために書き下ろしてくださったっていうことも、なかなか脳みそに伝わってこないぐらいびっくりしましたね。後からじっくり聴き直して、本当にこの作品に向けて桜井さんの目線で、彼ら(登場人物たち)を見て考えて書いてくださった曲なんだというのがじわじわ沁み込んできて感激しました。
―――すでに210の国と地域で配信や公開が予定されていますが、世界中の人たちに映画が届くことをどう感じていますか?また、映画を観た人にどのように感じて欲しいですか?
 
山田
:心の動きを描いているので、きっと心の動きというのは普遍的なものであって、海も超えると信じています。この作品が海を超えて海外の方に見ていただけるというのは本当に嬉しいことですし、自分も映画を観る立場の時に海外の映画をすごく楽しんで観るので、その逆のことが起こると思うとすごくワクワクしてしまいます。観た方は、どういった感情になるかとか、何を持って帰るかとかは本当に何でも良くて、観てくださった方それぞれに好きだなとか、自分に合わなかったなっていう感想だってもちろんあるとは思います。それでも何か、何でもいいので残っていたらすごく嬉しいですね。

ナルミのススメ。~『きみの色』~

一つひとつの質問に対してしっかりと考え、きっと宇宙のように広がる監督の頭の中の世界を、丁寧に言葉にして紡ぎ出してくださったのが印象的でした。10代の子たちが感じやすい葛藤や悩みを描きながらも、全世代の人々が感じる“心の動き”、“感情”を表現しているという山田監督。だからこそ、大人になった私たちが感じる、学生特有の甘酸っぱさに恥ずかしくなることなく観られる作品なのかなと。映画を観ていると、浄化されるような清々しさと温かさが心に満ちていきます。“光”をテーマに描かれたこの作品は、映像はもちろん、登場する人物たち全員が光のようで、キラキラと輝きを放っているのです。アニメだからこそ描けるパステルな淡い色遣いと漫画のようなタッチの繊細な絵に、心もふわりとほぐれていくような美しい世界観。粒だった音はまるで踊っているかのようで、そのリズムに合わせて心が一緒に弾む感覚。観ていてそんな楽しさがある映画でした。あの世界を全身で浴びる感覚を、劇場の大きなスクリーンでぜひ。

作品情報


(C)2024「きみの色」製作委員会


監督:山田尚子 (『映画 聲の形』『リズと青い鳥』)

声の出演:鈴川紗由 高石あかり 木戸大聖 やす子 悠木碧 寿美菜子 戸田恵子 新垣結衣
(※高石あかりさんの「高」は正式には「ハシゴの高」)

脚本:吉田玲子 (『猫の恩返し』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』)

主題歌:Mr.Children「in the pocket」(TOY'S FACTORY)

製作:『きみの色』製作委員会
配給:東宝
公開日:2024年8月30日(金)
公式サイト:https://kiminoiro.jp/

柴田平美

映画ライター

映画ライター。ねむろ観光大使。UHBの情報番組「いっとこ!」の映画コーナーで俳優や監督のインタビューを6年間担当し、およそ100作品近く携わってきました。私が初めて観た映画は『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』(2001)。故郷・根室に映画館がなかったため、観たい映画があると隣町の釧路まで行って観ていました。映画館では、一番後ろの真ん中で、ひとりで観るのが好き。ジャンルは、ラブ・ファンタジー・アクションを中心に、話題作をチェックしています。皆さんの心に残る映画を見つけるきっかけとなれますように。

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