2025.10.18

「声を上げることが文化を支える」 映画と地域の新しい関係。北海道フービーフェス・シンポジウムレポート

10月11日(土)、札幌・赤れんが庁舎で開催された「北海道フービーフェスティバル2025」のプログラムのひとつであるシンポジウム「日本映画産業の発展と地域での役割」。会場は満席に近く、熱気に包まれていました。映画監督の深田晃司氏、名古屋シネマスコーレ支配人の坪井篤史氏、弁護士の四宮隆史氏、元ジャパン・フィルムコミッション副理事長の佐藤有史氏、実行委員長の伊藤亜由美氏が登壇し、FM NORTH WAVEで放送中の映画情報番組「キャプテン・ポップコーン」の矢武兄輔氏が進行を務めました。。

日本版セー・エヌ・セー(CNC)設立の必要性と現状

フランスでは、映画館や配信サービスの収益の一部を税として徴収し、フランス国立映画映像センター(CNC)を通じて制作や教育、映画館の支援に再分配しています。この仕組みが映画文化を育む土台となっています。
一方、日本には同様の制度がなく、チケット料金の還元はほぼゼロ。人手不足や映画館の閉鎖が続くなど、支援体制の不在が課題です。
こうした中、「日本版CNC」の設立を求める動きが進んでおり、「action4cinema」などの団体が制度化に向けて活動しています。四宮氏は「半年以上、政府の委員会が進んでいないのが実情」としつつ、東京国際映画祭と連携したフォーラムで議論を進めていく考えを示しました。

ミニシアターを支える“今の声”──危機から生まれた支援の輪

坪井篤史氏は「日本のミニシアターはクラウドファンディングに頼らざるを得ない」と指摘。老朽化や機材更新にも支援がなく、閉館が相次いでいます。
深田晃司監督も「制作支援は増えてきたが、興行=映画館支援は極めて少ない」と語り、映画文化を支える土壌が脆弱であると訴えました。
2020年、コロナ禍での休館危機を機に立ち上がった「ミニシアター・エイド基金」は、全国の劇場の声をつなぎ、支援の輪を広げた象徴的な例となりました。

フービーフェスティバル──映画と食が生む新しい出会い

映画祭は単なる上映イベントではなく、世界の作品と出会う「映画市場(マーケット)」としての役割を担っています。
深田監督は「フービーフェスティバルの“食と映画”というテーマは新しい対話の場を生む」と評価しました。
坪井氏は「旧作でも満席になるなど、映画ファンが全国から集まった」と盛り上がりを実感し、今後は深夜上映やカルト作品など“映画ファンが楽しめる企画”への挑戦を期待しました。
伊藤委員長は「気軽に楽しめる映画祭」を目指し、地域連携やサンセバスチャン映画祭との協力を進めていると話しました。

伊藤委員長が描く、地域と映画の新しい関係

司会の矢武氏の「映画祭を行う上で1番大切にしていることは?」という問いに伊藤委員長は、特に重視するのが「気軽に楽しめる場」であることだと語ります。「地域住民も気軽に参加できることを意識し、北海道で制作された新作映画や人材育成に関わる作品を紹介するなど、地域連携にも力を入れています」と述べました。一方、コンペティションについては「作品数や審査員、優秀賞の特典など課題が多く、目的を明確にして関係者と議論することが重要です」と強調しました。

 
深田監督はコンペの意義について、「映画祭の価値は世界初上映のワールドプレミア作品に出会えること。新人部門など独自のコンペを設けることで、映画祭のカラーやブランド価値も高まります」と説明しました。カンヌやベネチアでは有力作品の集め方が難しい場合もある一方、プサンでは新人発掘から巨匠が生まれる例もあり、コンペは映画祭の多面的な魅力を支える要素だと語ります。

 
続いて矢武氏は、新たな試みとして「企画ピッチ」の導入を提案。主催者が補助金を用意し、優れた企画を選んで制作につなげる仕組みを紹介しました。これに対し深田監督は、「企画ピッチは映画祭が新しい才能と出会う重要な場」と賛同し、プサン国際映画祭などで行われる「企画マーケット」が資金調達や国際共同制作のきっかけになっていると説明。一方で、「選ばれた作品を必ず上映する」という形には慎重な姿勢を見せ、「上映の初公開権(ワールドプレミア)は作品にとって極めて重要。映画祭独自の特典や支援策を設ける形が現実的」と提案しました。

完成作品を地域資源に――自治体と映画の新しい関わり方

会場からは、映画業界や地域支援に関する質問も寄せられた。登壇者たちは、それぞれの立場から丁寧に回答し、活発な意見交換が行われた。

Q. 自治体が出資したものの、監督や制作の問題で中止になることがあります。自治体と映画の関わり方についてどう考えますか?

A. 佐藤氏:
「映画は作り手がストーリーや発見を生み出すもの。自治体はその創造のプロセスに過度に介入する必要はありません。むしろ、完成した作品からどんな魅力や気づきを地域に還元できるかを考えることが重要です。
台本や演出に事前に注文をつけるよりも、でき上がった映画を地域のPRや観光資源としてどう活かせるか。そこに自治体の本当の役割があると思います。」

登壇者の回答を受け、会場からは「自治体は映画制作の過程よりも、完成作品をどう地域に還元するかが重要」という理解が共有され、映画と地域の関わり方について具体的な議論の糸口が示された。
 

地域と映画をつなぐ熱き想い――登壇者が語る文化の未来

シンポジウムの締めくくりでは、登壇者それぞれが今後の展望と映画文化への思いを語りました。

佐藤氏は、映画と地域の関わりの重要性を改めて強調しました。「ジャパン・フィルムコミッションや札幌のフィルムコミッションは、映画を支援しながら地域を盛り上げる役割を担っている」と述べ、地域での撮影や活動が活発であることに触れました。最後に「これからも皆さんと一緒に知識を深めていければ」と感謝を込めて挨拶を締めました。

坪井氏は、「今回は劇場目線での話が中心だった」と振り返りながらも、現状厳しい状況にあるミニシアターが多いと現実を語りました。その一方で「やる気のあるスタッフもたくさんいる」と前向きに述べ、「ぜひ劇場に足を運んでもらいたい」と観客に呼びかけました。

 
四宮氏は、「日本人はエンタメが苦手」という率直な言葉から話を始めました。アイドルグループ・嵐のマネジメントを務める経験を踏まえ、「ファンが喜ぶことを徹底的に考える姿勢」が日本の映画祭やイベントにも必要だと指摘しました。アメリカのオールスターゲームやBTSのライブを例に挙げながら、「街や会場全体を使った没入型の体験づくりこそが観客を惹きつける」と語りました。映画イベントにもエンタメ性を意識することの大切さを訴え、会場を大きくうなずかせました。

 
伊藤委員長は、自身の歩みと映画祭への思いを振り返りながら、「まだよちよち歩きの映画祭を、地域の誇りにできるよう育てていきたい」と語りました。演劇から映画制作へと活動の幅を広げてきた経験をもとに、ファンや地域とともに作品を作ってきた姿勢を紹介しました。さらに、「来場者や参加者が映画祭に関わりたくなるような“関係人口”を増やしたい」と、次回開催への意欲を示しました。最後に、支えてくれたコミュニティや来場者への感謝を述べ、「ご指導、ご勉強をよろしくお願いします」と深々と頭を下げました。

それぞれの言葉からは、立場は違っても、映画を通じて地域と文化を豊かにしたいという共通の思いが感じられました。

日本版セー・エヌ・セー(CNC)設立の必要性と現状

フランスでは、映画館や配信サービスの収益の一部を税として徴収し、フランス国立映画映像センター(CNC)を通じて制作や教育、映画館の支援に再分配しています。この仕組みが映画文化を育む土台となっています。
一方、日本には同様の制度がなく、チケット料金の還元はほぼゼロ。人手不足や映画館の閉鎖が続くなど、支援体制の不在が課題です。
こうした中、「日本版CNC」の設立を求める動きが進んでおり、「action4cinema」などの団体が制度化に向けて活動しています。四宮氏は「半年以上、政府の委員会が進んでいないのが実情」としつつ、東京国際映画祭と連携したフォーラムで議論を進めていく考えを示しました。

ミニシアターを支える“今の声”──危機から生まれた支援の輪

坪井篤史氏は「日本のミニシアターはクラウドファンディングに頼らざるを得ない」と指摘。老朽化や機材更新にも支援がなく、閉館が相次いでいます。
深田晃司監督も「制作支援は増えてきたが、興行=映画館支援は極めて少ない」と語り、映画文化を支える土壌が脆弱であると訴えました。
2020年、コロナ禍での休館危機を機に立ち上がった「ミニシアター・エイド基金」は、全国の劇場の声をつなぎ、支援の輪を広げた象徴的な例となりました。

フービーフェスティバル──映画と食が生む新しい出会い

映画祭は単なる上映イベントではなく、世界の作品と出会う「映画市場(マーケット)」としての役割を担っています。
深田監督は「フービーフェスティバルの“食と映画”というテーマは新しい対話の場を生む」と評価しました。
坪井氏は「旧作でも満席になるなど、映画ファンが全国から集まった」と盛り上がりを実感し、今後は深夜上映やカルト作品など“映画ファンが楽しめる企画”への挑戦を期待しました。
伊藤委員長は「気軽に楽しめる映画祭」を目指し、地域連携やサンセバスチャン映画祭との協力を進めていると話しました。

伊藤委員長が描く、地域と映画の新しい関係

司会の矢武氏の「映画祭を行う上で1番大切にしていることは?」という問いに伊藤委員長は、特に重視するのが「気軽に楽しめる場」であることだと語ります。「地域住民も気軽に参加できることを意識し、北海道で制作された新作映画や人材育成に関わる作品を紹介するなど、地域連携にも力を入れています」と述べました。一方、コンペティションについては「作品数や審査員、優秀賞の特典など課題が多く、目的を明確にして関係者と議論することが重要です」と強調しました。

 
深田監督はコンペの意義について、「映画祭の価値は世界初上映のワールドプレミア作品に出会えること。新人部門など独自のコンペを設けることで、映画祭のカラーやブランド価値も高まります」と説明しました。カンヌやベネチアでは有力作品の集め方が難しい場合もある一方、プサンでは新人発掘から巨匠が生まれる例もあり、コンペは映画祭の多面的な魅力を支える要素だと語ります。

 
続いて矢武氏は、新たな試みとして「企画ピッチ」の導入を提案。主催者が補助金を用意し、優れた企画を選んで制作につなげる仕組みを紹介しました。これに対し深田監督は、「企画ピッチは映画祭が新しい才能と出会う重要な場」と賛同し、プサン国際映画祭などで行われる「企画マーケット」が資金調達や国際共同制作のきっかけになっていると説明。一方で、「選ばれた作品を必ず上映する」という形には慎重な姿勢を見せ、「上映の初公開権(ワールドプレミア)は作品にとって極めて重要。映画祭独自の特典や支援策を設ける形が現実的」と提案しました。

完成作品を地域資源に――自治体と映画の新しい関わり方

会場からは、映画業界や地域支援に関する質問も寄せられた。登壇者たちは、それぞれの立場から丁寧に回答し、活発な意見交換が行われた。

Q. 自治体が出資したものの、監督や制作の問題で中止になることがあります。自治体と映画の関わり方についてどう考えますか?

A. 佐藤氏:
「映画は作り手がストーリーや発見を生み出すもの。自治体はその創造のプロセスに過度に介入する必要はありません。むしろ、完成した作品からどんな魅力や気づきを地域に還元できるかを考えることが重要です。
台本や演出に事前に注文をつけるよりも、でき上がった映画を地域のPRや観光資源としてどう活かせるか。そこに自治体の本当の役割があると思います。」

登壇者の回答を受け、会場からは「自治体は映画制作の過程よりも、完成作品をどう地域に還元するかが重要」という理解が共有され、映画と地域の関わり方について具体的な議論の糸口が示された。
 

地域と映画をつなぐ熱き想い――登壇者が語る文化の未来

シンポジウムの締めくくりでは、登壇者それぞれが今後の展望と映画文化への思いを語りました。

佐藤氏は、映画と地域の関わりの重要性を改めて強調しました。「ジャパン・フィルムコミッションや札幌のフィルムコミッションは、映画を支援しながら地域を盛り上げる役割を担っている」と述べ、地域での撮影や活動が活発であることに触れました。最後に「これからも皆さんと一緒に知識を深めていければ」と感謝を込めて挨拶を締めました。

坪井氏は、「今回は劇場目線での話が中心だった」と振り返りながらも、現状厳しい状況にあるミニシアターが多いと現実を語りました。その一方で「やる気のあるスタッフもたくさんいる」と前向きに述べ、「ぜひ劇場に足を運んでもらいたい」と観客に呼びかけました。

 
四宮氏は、「日本人はエンタメが苦手」という率直な言葉から話を始めました。アイドルグループ・嵐のマネジメントを務める経験を踏まえ、「ファンが喜ぶことを徹底的に考える姿勢」が日本の映画祭やイベントにも必要だと指摘しました。アメリカのオールスターゲームやBTSのライブを例に挙げながら、「街や会場全体を使った没入型の体験づくりこそが観客を惹きつける」と語りました。映画イベントにもエンタメ性を意識することの大切さを訴え、会場を大きくうなずかせました。

 
伊藤委員長は、自身の歩みと映画祭への思いを振り返りながら、「まだよちよち歩きの映画祭を、地域の誇りにできるよう育てていきたい」と語りました。演劇から映画制作へと活動の幅を広げてきた経験をもとに、ファンや地域とともに作品を作ってきた姿勢を紹介しました。さらに、「来場者や参加者が映画祭に関わりたくなるような“関係人口”を増やしたい」と、次回開催への意欲を示しました。最後に、支えてくれたコミュニティや来場者への感謝を述べ、「ご指導、ご勉強をよろしくお願いします」と深々と頭を下げました。

それぞれの言葉からは、立場は違っても、映画を通じて地域と文化を豊かにしたいという共通の思いが感じられました。

休日のスケジュールが決まっていない方、何を見ようか迷っている方など"ライトな映画ファン"に対して、映画館に出かけて、映画を楽しむことをおすすめします。SASARU movie編集部では、話題性の高い最新映画を中心にその情報や魅力を継続的に発信していきます。

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