北海道・余市が舞台、主演を升毅さんが務め、田中美里さん・日高(「高」は正式には「ハシゴの高」)麻鈴さんが共演する映画『美晴に傘を』。監督・脚本は、初めての長編作品を手掛けるバイリンガル脚本家の渋谷悠さん。1月24日(金)に公開する『美晴に傘を』主演の升毅さんに、UHBアナウンサーの柴田平美がインタビュー。渋谷監督との現場、余市での思い出やターニングポイントとなった出会いまでたっぷりお話を伺いました。
升毅さんインタビュー
升:僕が初めて映画の主演を務めた時はもう60歳を超えていて、「こんな歳になって主演ができるんだ」という喜びがあって。今回またできる、歳を重ねてもこういうことが起こるということがすごく嬉しくもあり、少し自分の中で感動しましたね。
―――やはり主演というのは特別なものですか?
升:最初に主演をやった時は、少し背負いすぎて危なかったんですよ。全部背負わなければいけないというつもりで現場に入ったのですが、すぐにその現場でそうではないと気が付いて。映画は各セクションにちゃんと座長さんがいて、僕は「その俳優部の座長さんをやればいいんだ」ということを前回の時に学んでいたので、今回も気負うことなく、無理せず、ただ役者チームをまとめることができたらいいなという思いでした。
―――俳優部の座長というと、皆さんとコミュニケーションをとりながらの撮影だったかと思いますが、現場はどのような雰囲気だったのでしょうか?
升:とても良い現場で、すごく少数精鋭のチームでした。役者は、自分の出番に合わせて、後から入る人、先に出て先に帰っちゃう人とバラバラでしたが、その中でもそれぞれとちゃんとコミュニケーションをとりながら進めていきました。コミュニケーションという名の飲み会なんですけど(笑)。すごくいいチームで、撮影からもう1年が経ちますが、東京で会ってみんなで食事などもしています。
升:渋谷監督はプロフィールにバイリンガルって書いてありますが、日本語が下手なんですよ(笑)。アメリカで演出を勉強されているので、向こうの言葉で色々と吸収しているから、まず言いたいことが英語で浮かんでそこから日本語に変換するのですが、間違っている。それをプロデューサーの妻が、「その日本語じゃなくてこの日本語だ」と変換してくれていました。日本語を日本語に変換してくれる人がいて、それを僕らは受け入れながら進めていくのですが、そういうことも面白くて。監督本人も、「僕はこういう人間なので、ごめんなさいね」というあっけらかんとした人でした。画作りも、もちろん長編での画作りはあんまり経験がないので、撮影監督の早坂さんとたくさんコミュニケーションを取りながら撮っていて。こういう監督、面白いなと思いました。
―――チームワークがしっかりしているのですね。
升:そうです。監督がトップにいない感じです。どうしても、昔の映画はそんなイメージがあるかもしれませんし、それはそれで素敵なことですが、今の世の中こういうのがとってもいいなと感じました。長所でも短所でも、ものを隠さないで出す人たちが集まると、みんなが補い合って自然と現場が良くなる。そうすると、やはりいいものができると感じましたね。経験値など色々な要素が融合すると、こんなに素晴らしいことになるのだと思いました。
升:単純に読んで感動して泣いちゃうぐらい、素敵だなって。もちろん、僕は自分の役に思い入れをしながら読んでいましたけれど、切なくて、でも少しずつ成長していって、最終的にまだ成長できるかもしれないということはすごくいいことで。読んだときは、自分中心で読んでいたので、よくわかってなかったのですが、実際に現場に入って撮影が始まってくると「みんなが主役だ」と思いました。それぞれちゃんとスポットが当たって、見せ場もあるし、みんなが少しずつ何かによって成長している姿があって。完成した作品を見たときに確信しました。「やっぱそういう映画だったんだ。これは升毅、主演じゃない。」と(笑)。
――――そんなことはないですが、でも確かにクスッと笑える部分もあり、皆さんの個性が光っていましたよね。
升:みんながあの町に生きていたでしょう。すごく素敵だなと。なかなかそういう映画は今ないのではないかなと思いました。
升:最初に漁の部分だけを7月に2泊3日で撮影して、9月に1週間。一昨年の9月は暑かったです。とっても暑い日が何日かあって、朝はちょっと涼しい。比較的過ごしやすい時期で、実りの秋でもありましたし、ブドウなどの果実や海の幸などたくさんございました。
―――かみしめるように言ってくださっていますね(笑)。
升:はい。ちょっと思い出しながら唾が出てくる感じ(笑)。
美味しいものをできる限りいただきました。
―――1番印象に残っている食べ物は何でしたか?
升:やっぱり海鮮丼かな。海鮮丼が有名な食堂があって、おすすめだと聞いたので行ってみました。決められませんでした。
―――色々な海鮮が乗っていて迷いますよね。(笑)
升:そうですよね。一点集中か色々乗っているものか、どっちだって。まずは、色々。次来たときにまた違うものをと思い、何回か訪れました。
升:地元の方がやっているお店に行くのが本当に楽しみで、スナックを攻めるのが好きです。行ったお店が大当たりで、おばあちゃんがやっていらっしゃるのですが、すごく良い方で毎晩通いました。最後の日に煮アワビのお土産までいただいて、すごく嬉しかったですね。撮影自体も楽しかったですし、それ以外の時間も楽しく過ごして、ひとつ忘れられない街ができました。
―――撮影の時のエピソードはありますか?
升:向こうが勝手にマブダチだと思っている阿南健治さん演じる“二郎”という役の方がいて、善次に色々ちょっかいを出してきて、エロ俳句を作っている。僕は、ほぼムッとしていて表情がない役でしたが、彼とのシーンは少しほほえんだりできるシーンもあり楽しかったです。港で「一緒に帰ろうよ」と言われて、善次は軽トラを運転していて二郎を乗せずに走り去るシーンがあるのですが、バックミラーで見ていたらめちゃめちゃ足が速いんですよ。追いつかれるんじゃないかと思うくらい速いんですよ(笑)。そんなに必死で走らなくてもいいじゃん!って。どんどん離されていくのを狙って撮っているのに、追いついてしまうくらいでした(笑)。終わってからみんな大爆笑でしたね。阿南さんは、普段東京でも仕事先にほぼ自転車で行くらしいです。一昨年撮影が終わって、飛行場から東京の街中にどういうルートで帰るのか聞いたら、飛行場のそばに自転車をおいていると言っていました。
―――すごい!自転車で?!それは速いはずですね(笑)。
升:役から役に切り替えるわけではなく、基本いつでも自分に戻ってくる。普段の自分がいてそこから役への切り替えなので、例えば全然方向性の違う役だとしても、ひとつの役をどれだけ噛み砕いて自分の中に落とし込めるかという作業だけです。それさえきちんとできていれば、あとは現場に行くとおのずとストーリーやドラマの中の関係性があるので、進行していくだけ。僕の中では、それはもう“自然体”だという認識をしていて。昔はがむしゃらに役を作っていたのですが、ある時から改めて、この10年ぐらいはいかにして自然にいられるかを考えています。
―――何かきっかけがあったのでしょうか?
升:10年前に、故・佐々部清監督と出会って学んだことなんです。60歳の私が今までの役作りを全否定されて。はじめましての時に、「それやりすぎです、それもやりすぎです」と全部そぎ落とされた。でも、佐々部監督が言うなら全部信じてやってみようと思い、自分もやりすぎぐらい削ぎ落として芝居をしたら、「素晴らしい」と褒めていただいて。こういうことなのだと思って、それからはそのことを常に考えながら役と向き合うようにしています。
升:僕がよく言うのは、“優しさ”です。普通の言葉ですけど、優しさって大事だよなと。常に自分が人に優しくすることもそうだし、優しくされたときにちゃんと感じられるか。それも佐々部清監督と出会ってから、ある作品で学んだことですけど、「怒りには限界があるけれど、優しさには限界がない」というフレーズがあって、確かにそうだよなと思うようになってから聞かれたときは“優しさ”と答えていますね。
―――佐々部監督との出会いは、升さんのターニングポイントとなる出会いだったのですね。
ナルミのススメ。~『美晴に傘を』~
『美晴に傘を』作品情報
出演:升毅 田中美里 日高(「高」は正式には「ハシゴの高」)麻鈴
和田聰宏 宮本凜音 上原剛史 井上薫 阿南健治
監督・脚本:渋谷悠
撮影監督:早坂伸
プロデューサー:大川祥吾 渋谷真樹子
配給:ギグリーボックス
升毅さんインタビュー
升:僕が初めて映画の主演を務めた時はもう60歳を超えていて、「こんな歳になって主演ができるんだ」という喜びがあって。今回またできる、歳を重ねてもこういうことが起こるということがすごく嬉しくもあり、少し自分の中で感動しましたね。
―――やはり主演というのは特別なものですか?
升:最初に主演をやった時は、少し背負いすぎて危なかったんですよ。全部背負わなければいけないというつもりで現場に入ったのですが、すぐにその現場でそうではないと気が付いて。映画は各セクションにちゃんと座長さんがいて、僕は「その俳優部の座長さんをやればいいんだ」ということを前回の時に学んでいたので、今回も気負うことなく、無理せず、ただ役者チームをまとめることができたらいいなという思いでした。
―――俳優部の座長というと、皆さんとコミュニケーションをとりながらの撮影だったかと思いますが、現場はどのような雰囲気だったのでしょうか?
升:とても良い現場で、すごく少数精鋭のチームでした。役者は、自分の出番に合わせて、後から入る人、先に出て先に帰っちゃう人とバラバラでしたが、その中でもそれぞれとちゃんとコミュニケーションをとりながら進めていきました。コミュニケーションという名の飲み会なんですけど(笑)。すごくいいチームで、撮影からもう1年が経ちますが、東京で会ってみんなで食事などもしています。
升:渋谷監督はプロフィールにバイリンガルって書いてありますが、日本語が下手なんですよ(笑)。アメリカで演出を勉強されているので、向こうの言葉で色々と吸収しているから、まず言いたいことが英語で浮かんでそこから日本語に変換するのですが、間違っている。それをプロデューサーの妻が、「その日本語じゃなくてこの日本語だ」と変換してくれていました。日本語を日本語に変換してくれる人がいて、それを僕らは受け入れながら進めていくのですが、そういうことも面白くて。監督本人も、「僕はこういう人間なので、ごめんなさいね」というあっけらかんとした人でした。画作りも、もちろん長編での画作りはあんまり経験がないので、撮影監督の早坂さんとたくさんコミュニケーションを取りながら撮っていて。こういう監督、面白いなと思いました。
―――チームワークがしっかりしているのですね。
升:そうです。監督がトップにいない感じです。どうしても、昔の映画はそんなイメージがあるかもしれませんし、それはそれで素敵なことですが、今の世の中こういうのがとってもいいなと感じました。長所でも短所でも、ものを隠さないで出す人たちが集まると、みんなが補い合って自然と現場が良くなる。そうすると、やはりいいものができると感じましたね。経験値など色々な要素が融合すると、こんなに素晴らしいことになるのだと思いました。
(C)2025 牧羊犬/キアロスクーロ撮影事務所/アイスクライム
升:単純に読んで感動して泣いちゃうぐらい、素敵だなって。もちろん、僕は自分の役に思い入れをしながら読んでいましたけれど、切なくて、でも少しずつ成長していって、最終的にまだ成長できるかもしれないということはすごくいいことで。読んだときは、自分中心で読んでいたので、よくわかってなかったのですが、実際に現場に入って撮影が始まってくると「みんなが主役だ」と思いました。それぞれちゃんとスポットが当たって、見せ場もあるし、みんなが少しずつ何かによって成長している姿があって。完成した作品を見たときに確信しました。「やっぱそういう映画だったんだ。これは升毅、主演じゃない。」と(笑)。
――――そんなことはないですが、でも確かにクスッと笑える部分もあり、皆さんの個性が光っていましたよね。
升:みんながあの町に生きていたでしょう。すごく素敵だなと。なかなかそういう映画は今ないのではないかなと思いました。
升:最初に漁の部分だけを7月に2泊3日で撮影して、9月に1週間。一昨年の9月は暑かったです。とっても暑い日が何日かあって、朝はちょっと涼しい。比較的過ごしやすい時期で、実りの秋でもありましたし、ブドウなどの果実や海の幸などたくさんございました。
―――かみしめるように言ってくださっていますね(笑)。
升:はい。ちょっと思い出しながら唾が出てくる感じ(笑)。
美味しいものをできる限りいただきました。
―――1番印象に残っている食べ物は何でしたか?
升:やっぱり海鮮丼かな。海鮮丼が有名な食堂があって、おすすめだと聞いたので行ってみました。決められませんでした。
―――色々な海鮮が乗っていて迷いますよね。(笑)
升:そうですよね。一点集中か色々乗っているものか、どっちだって。まずは、色々。次来たときにまた違うものをと思い、何回か訪れました。
升:地元の方がやっているお店に行くのが本当に楽しみで、スナックを攻めるのが好きです。行ったお店が大当たりで、おばあちゃんがやっていらっしゃるのですが、すごく良い方で毎晩通いました。最後の日に煮アワビのお土産までいただいて、すごく嬉しかったですね。撮影自体も楽しかったですし、それ以外の時間も楽しく過ごして、ひとつ忘れられない街ができました。
―――撮影の時のエピソードはありますか?
升:向こうが勝手にマブダチだと思っている阿南健治さん演じる“二郎”という役の方がいて、善次に色々ちょっかいを出してきて、エロ俳句を作っている。僕は、ほぼムッとしていて表情がない役でしたが、彼とのシーンは少しほほえんだりできるシーンもあり楽しかったです。港で「一緒に帰ろうよ」と言われて、善次は軽トラを運転していて二郎を乗せずに走り去るシーンがあるのですが、バックミラーで見ていたらめちゃめちゃ足が速いんですよ。追いつかれるんじゃないかと思うくらい速いんですよ(笑)。そんなに必死で走らなくてもいいじゃん!って。どんどん離されていくのを狙って撮っているのに、追いついてしまうくらいでした(笑)。終わってからみんな大爆笑でしたね。阿南さんは、普段東京でも仕事先にほぼ自転車で行くらしいです。一昨年撮影が終わって、飛行場から東京の街中にどういうルートで帰るのか聞いたら、飛行場のそばに自転車をおいていると言っていました。
―――すごい!自転車で?!それは速いはずですね(笑)。
升:役から役に切り替えるわけではなく、基本いつでも自分に戻ってくる。普段の自分がいてそこから役への切り替えなので、例えば全然方向性の違う役だとしても、ひとつの役をどれだけ噛み砕いて自分の中に落とし込めるかという作業だけです。それさえきちんとできていれば、あとは現場に行くとおのずとストーリーやドラマの中の関係性があるので、進行していくだけ。僕の中では、それはもう“自然体”だという認識をしていて。昔はがむしゃらに役を作っていたのですが、ある時から改めて、この10年ぐらいはいかにして自然にいられるかを考えています。
―――何かきっかけがあったのでしょうか?
升:10年前に、故・佐々部清監督と出会って学んだことなんです。60歳の私が今までの役作りを全否定されて。はじめましての時に、「それやりすぎです、それもやりすぎです」と全部そぎ落とされた。でも、佐々部監督が言うなら全部信じてやってみようと思い、自分もやりすぎぐらい削ぎ落として芝居をしたら、「素晴らしい」と褒めていただいて。こういうことなのだと思って、それからはそのことを常に考えながら役と向き合うようにしています。
升:僕がよく言うのは、“優しさ”です。普通の言葉ですけど、優しさって大事だよなと。常に自分が人に優しくすることもそうだし、優しくされたときにちゃんと感じられるか。それも佐々部清監督と出会ってから、ある作品で学んだことですけど、「怒りには限界があるけれど、優しさには限界がない」というフレーズがあって、確かにそうだよなと思うようになってから聞かれたときは“優しさ”と答えていますね。
―――佐々部監督との出会いは、升さんのターニングポイントとなる出会いだったのですね。
ナルミのススメ。~『美晴に傘を』~
(C)2025 牧羊犬/キアロスクーロ撮影事務所/アイスクライム
『美晴に傘を』作品情報
(C)2025 牧羊犬/キアロスクーロ撮影事務所/アイスクライム
出演:升毅 田中美里 日高(「高」は正式には「ハシゴの高」)麻鈴
和田聰宏 宮本凜音 上原剛史 井上薫 阿南健治
監督・脚本:渋谷悠
撮影監督:早坂伸
プロデューサー:大川祥吾 渋谷真樹子
配給:ギグリーボックス
柴田平美
UHBアナウンサー
UHBアナウンサー。ねむろ観光大使。土曜の情報番組「いっとこ!」の映画コーナーを担当。私が初めて観た映画は『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』(2001)。故郷・根室に映画館がなかったため、観たい映画があると隣町の釧路まで行って観ていました。映画館では、一番後ろの真ん中で、ひとりで観るのが好き。ジャンルは、ラブ・ファンタジー・アクションを中心に、話題作をチェックしています。皆さんの心に残る映画を見つけるきっかけとなれますように。