2025.3.6

戦禍の中で強く生きる動物と人々の絆『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』山田監督の舞台挨拶レポート

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻。その戦禍の中、置き去りにされた犬たちの現実を取材したドキュメンタリー映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』が2025年2月21日(金)より北海道内で公開されました。

本作を手掛けたのは、これまでも犬や猫の命をテーマに、福島や能登などの被災地を取材してきた山田あかね監督。公開を記念して、3月1日(土)に札幌のシアターキノにて山田あかね監督による舞台挨拶が行われました。

舞台挨拶では、山田監督が本作に込めた想いや、取材を通して感じたことなどが語られました。今回はSASARU movie編集部がその様子をレポートします。

――戦時下という状況で、人命だけではなく動物の命も必死で助けようとする人々がいたというお話がありましたがその点についてお聞かせください。

山田:2022年2月24日に侵攻が始まり、私がポーランドに入国したのは4月17日で、約1か月半後のことでした。ポーランドとウクライナの国境には、動物愛護団体だけでなく、様々なボランティアの方が世界中から集まっていました。彼らは避難してきた人に「何か困っていませんか?」「ご飯は食べてますか?」「携帯電話がここにありますよ!」と声をかけていました。犬を連れている人がいれば、「あそこに動物愛護団体がいますよ!」と案内するなど、とてもウェルカムな雰囲気でしたね。動物愛護団体も、イギリスやフランス、ドイツ、デンマークなど各国からたくさん集まっていて、命からがら動物と共に逃げてきた人々に、動物のフードや医療の提供をしていました。当初は恐ろしい光景を目にするのではないかと緊張していましたが、実際には人間の良い部分が先に目に入ったので、いい意味で拍子抜けというか、怖がらなくても良いんだなと思いました。


 
――本作のメインとして描かれているボロディアンカでの悲劇が起こってしまうシーンがありました。その点についてはいかがですか?

山田:ウクライナに入った当初は、世界中がウクライナに注目していたので、人的支援も動物への支援も非常に充実していました。国境付近やウクライナの西部を訪れた帰り道で、ポーランドの愛護団体の方から本作で紹介した悲惨な現実があることを知らされました。

その時に「なぜこんなことが起こるか、真相を知りたい」と思い、その真相が明らかになるまでは現地に行き続けて取材をしようと決めました。
 

(C)『犬と戦争』製作委員会


(C)『犬と戦争』製作委員会

――実際に取材を続け、真相にたどり着くことはできましたか?そして、何を感じましたか?

山田:ロシア兵たちも犬を殺したかったわけではないと思います。戦争によって橋が爆破され、ボランティア団体の女性たちが駆けつけられなかったり、近くに住むシェルターの職員の方も恐怖で助けに行けなかったりと、誰かの悪意によって犬たちが亡くなったわけではなく、戦争という困難な状況下で解決できない理由があって亡くなってしまうのだと思いました。それは孤立した人間でも起こりうることで、戦争の直接的な恐怖とは異なる、別の形の恐怖もあるのではないかと感じました。
――本作に登場する元軍人の方の「動物を救うことは人間を救う」という象徴的な言葉は、心に訴えてくるものがありましたね。どのように彼と出会われたのですか?

ウクライナの動物保護団体のメンバーから「トムというとても頑張ってくれた人がいる」と聞き、帰国後にトムについて調べて連絡を取り、ロンドンで話を聞くことができました。
トムはイギリス生まれで、親族の男性は全員軍人です。彼自身も中学を卒業後にすぐに軍に入隊し、誇りを持っていました。ただ、続けていくうちに自分がしていることは本当に正しいのかと疑問に思ってしまったようです。軍人である以上、そこに疑問を持ってはいけないのですが、そのことですごく精神的に不安定になり、人間のケアでは回復できない状態になってしまったんです。そこで、軍から軍用犬の世話をしてみたらどうかと言われ、実際に世話をする中で初めて笑うことができたそうです。

そして、「犬に救われたのだから、お返しに今度は自分が動物を救ってあげよう。軍人経験があるから激戦地まで行くことができる」と思い、現在の活動を始めたそうです。同じイギリス軍の仲間とBTCという動物救助隊を作り活動をしています。
 

(C)『犬と戦争』製作委員会


(C)『犬と戦争』製作委員会

――侵攻開始から3年が経過した現在の現地の情報について、何か情報があれば教えてください。

山田:取材を始めた当初は、世界中から多くの支援者が集まり、ウクライナの人たちも活気に満ちていました。しかし、翌年訪れた際には支援者の姿はなく、ウクライナの人たちも全体的に暗い雰囲気を感じました。

最後に訪問したのは去年の7月ですが、アメリカの支援も縮小傾向にあり、人々からどんよりとした空気を感じました。

 
連絡を取っているウクライナの人の情報によれば、ホテルなどの大きな施設には電気が通っていますが、小さな商店などでは停電が多く、冷凍庫の食品も腐ってしまい食中毒が発生するなど、戦争下の状況で格差社会が如実に現れています。

全体的に、支援が枯渇して困っている方がすごい勢いで増えてきているという印象でした。


▼現在、山田監督は今回取材したウクライナの動物愛護団体、BTCへ寄付を集めています。詳細は以下をご確認ください。
https://readyfor.jp/projects/UA_animal


映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』(G)はイオンシネマ江別、小樽、釧路、北見で2月21日(金)、シアターキノは2月22日(金)、函館シネマアイリスは2月28日(金)から公開です!

本作には、戦争直後の映像や危険な状況に置かれている動物の映像もあるのでご留意ください。

(C)『犬と戦争』製作委員会

――戦時下という状況で、人命だけではなく動物の命も必死で助けようとする人々がいたというお話がありましたがその点についてお聞かせください。

山田:2022年2月24日に侵攻が始まり、私がポーランドに入国したのは4月17日で、約1か月半後のことでした。ポーランドとウクライナの国境には、動物愛護団体だけでなく、様々なボランティアの方が世界中から集まっていました。彼らは避難してきた人に「何か困っていませんか?」「ご飯は食べてますか?」「携帯電話がここにありますよ!」と声をかけていました。犬を連れている人がいれば、「あそこに動物愛護団体がいますよ!」と案内するなど、とてもウェルカムな雰囲気でしたね。動物愛護団体も、イギリスやフランス、ドイツ、デンマークなど各国からたくさん集まっていて、命からがら動物と共に逃げてきた人々に、動物のフードや医療の提供をしていました。当初は恐ろしい光景を目にするのではないかと緊張していましたが、実際には人間の良い部分が先に目に入ったので、いい意味で拍子抜けというか、怖がらなくても良いんだなと思いました。


 

(C)『犬と戦争』製作委員会

――本作のメインとして描かれているボロディアンカでの悲劇が起こってしまうシーンがありました。その点についてはいかがですか?

山田:ウクライナに入った当初は、世界中がウクライナに注目していたので、人的支援も動物への支援も非常に充実していました。国境付近やウクライナの西部を訪れた帰り道で、ポーランドの愛護団体の方から本作で紹介した悲惨な現実があることを知らされました。

その時に「なぜこんなことが起こるか、真相を知りたい」と思い、その真相が明らかになるまでは現地に行き続けて取材をしようと決めました。
 

(C)『犬と戦争』製作委員会

――実際に取材を続け、真相にたどり着くことはできましたか?そして、何を感じましたか?

山田:ロシア兵たちも犬を殺したかったわけではないと思います。戦争によって橋が爆破され、ボランティア団体の女性たちが駆けつけられなかったり、近くに住むシェルターの職員の方も恐怖で助けに行けなかったりと、誰かの悪意によって犬たちが亡くなったわけではなく、戦争という困難な状況下で解決できない理由があって亡くなってしまうのだと思いました。それは孤立した人間でも起こりうることで、戦争の直接的な恐怖とは異なる、別の形の恐怖もあるのではないかと感じました。

(C)『犬と戦争』製作委員会

――本作に登場する元軍人の方の「動物を救うことは人間を救う」という象徴的な言葉は、心に訴えてくるものがありましたね。どのように彼と出会われたのですか?

ウクライナの動物保護団体のメンバーから「トムというとても頑張ってくれた人がいる」と聞き、帰国後にトムについて調べて連絡を取り、ロンドンで話を聞くことができました。
トムはイギリス生まれで、親族の男性は全員軍人です。彼自身も中学を卒業後にすぐに軍に入隊し、誇りを持っていました。ただ、続けていくうちに自分がしていることは本当に正しいのかと疑問に思ってしまったようです。軍人である以上、そこに疑問を持ってはいけないのですが、そのことですごく精神的に不安定になり、人間のケアでは回復できない状態になってしまったんです。そこで、軍から軍用犬の世話をしてみたらどうかと言われ、実際に世話をする中で初めて笑うことができたそうです。

そして、「犬に救われたのだから、お返しに今度は自分が動物を救ってあげよう。軍人経験があるから激戦地まで行くことができる」と思い、現在の活動を始めたそうです。同じイギリス軍の仲間とBTCという動物救助隊を作り活動をしています。
 

(C)『犬と戦争』製作委員会

――侵攻開始から3年が経過した現在の現地の情報について、何か情報があれば教えてください。

山田:取材を始めた当初は、世界中から多くの支援者が集まり、ウクライナの人たちも活気に満ちていました。しかし、翌年訪れた際には支援者の姿はなく、ウクライナの人たちも全体的に暗い雰囲気を感じました。

最後に訪問したのは去年の7月ですが、アメリカの支援も縮小傾向にあり、人々からどんよりとした空気を感じました。

 

(C)『犬と戦争』製作委員会

連絡を取っているウクライナの人の情報によれば、ホテルなどの大きな施設には電気が通っていますが、小さな商店などでは停電が多く、冷凍庫の食品も腐ってしまい食中毒が発生するなど、戦争下の状況で格差社会が如実に現れています。

全体的に、支援が枯渇して困っている方がすごい勢いで増えてきているという印象でした。


▼現在、山田監督は今回取材したウクライナの動物愛護団体、BTCへ寄付を集めています。詳細は以下をご確認ください。
https://readyfor.jp/projects/UA_animal


映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』(G)はイオンシネマ江別、小樽、釧路、北見で2月21日(金)、シアターキノは2月22日(金)、函館シネマアイリスは2月28日(金)から公開です!

本作には、戦争直後の映像や危険な状況に置かれている動物の映像もあるのでご留意ください。

休日のスケジュールが決まっていない方、何を見ようか迷っている方など"ライトな映画ファン"に対して、映画館に出かけて、映画を楽しむことをおすすめします。SASARU movie編集部では、話題性の高い最新映画を中心にその情報や魅力を継続的に発信していきます。

eventイベント・キャンペーン

point注目映画一覧(外部サイト)

Anora

ANORA アノーラ

2025-02-28

第77回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝いたショーン・ベイカーのロマンティックコメディ。ニューヨークを舞台に、ロシア系アメリカ人のストリップダンサー、アノーラのジェットコースターのようなロマンスと騒動を、ユーモラスに、そして真摯に描く。

Captain America: Brave New World

キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド

2025-02-14

“初代”キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースから最も信頼され、盾を託されたファルコンことサム・ウィルソンは、その後、重圧と葛藤しながら“二代目”を受け入れる心を決めた。これまでアベンジャーズの中心人物としてリーダーシップを発揮してきた“キャプテン・アメリカ”は、単なるひとりのヒーローに留まらず、アメリカの象徴でもあり、さらにはヒーローの象徴とさえ言える存在だった。“ヒーローの象徴”キャプテン・アメリカを受け継いだ男の物語がここから始まる。

The Brutalist

ブルータリスト

2025-02-21

第二次世界大戦下にホロコーストを生き延び、アメリカへと渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トートの30年にわたる数奇な運命を描いたヒューマン・ドラマ。新天地に到着したひとりの男を待ち受ける出会い、離れ離れの妻への愛、そして大きな困難と代償を壮大なスケールで活写する。

Wicked

ウィキッド ふたりの魔女

2025-03-07

魔法と幻想の国・オズにあるシズ大学の学生として出会ったエルファバとグリンダ。緑色の肌をもち周囲から誤解されてしまうエルファバと、野心的で美しく人気者のグリンダは、寄宿舎で偶然ルームメイトになる。見た目も性格もまったく異なる2人は、最初こそ激しく衝突するが、次第に友情を深め、かけがえのない存在になっていく。しかしこの出会いが、やがてオズの国の運命を大きく変えることになる。

A Complete Unknown

名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN

2025-02-28

1960年代初頭、後世に大きな影響を与えたニューヨークの音楽シーンを舞台に、19歳だったミネソタ出身の一人の無名ミュージシャン、ボブ・ディランが、フォーク・シンガーとしてコンサートホールやチャートの寵児となり、彼の歌と神秘性が世界的なセンセーションを巻き起こしつつ、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでの画期的なエレクトリック・ロックンロール・パフォーマンスで頂点を極めるまでを描く。

The Wild Robot

野生の島のロズ

2025-02-07

嵐の夜、人間をサポートするプログラムがインストールされた〈最新型アシストロボット〉が入った箱が、無人島に流れ着いた。偶然にも起動ボタンが押されて、“彼女”は目覚める。誰もいない大自然の中で、ロズは命令を求め、歩き出す。島の動物たちからは“怪物”呼ばわりされ、大自然を孤独にあてもなくさまようロズ。誰からも命令されない、過酷な野生の島では、ロズに組み込まれたプログラムは通用しない。しかしある日、ひとつの“小さな出会い”をきっかけに、ロズに思いもよらない変化の兆しが現れ始める――

Presence

プレゼンス 存在

2025-03-07

崩壊寸前の4人家族が、ある大きな屋敷に引っ越してくる。一家の10代の少女クロエは、家の中に自分たち以外の何かが存在しているように感じてならなかった。“それ”は一家が引っ越してくる前からそこにいて、“それ”は人に見られたくない家族の秘密を目撃する。クロエは母親にも兄も好かれておらず、そんな彼女に“それ”は親近感を抱く。一家とともに過ごしていくうちに、“それ”は目的を果たすために行動に出る。

A Real Pain

リアル・ペイン〜心の旅〜

2025-01-31

ニューヨークに住むユダヤ人のデヴィッドとベンジーは、亡くなった最愛の祖母の遺言で、ポーランドのアウシュビッツまでのツアー旅行に参加する。従兄弟同士でありながら正反対の性格な二人は、時に騒動を起こしながらも、ツアーに参加したユニークな人々との交流、そして祖母に縁あるポーランドの地を巡る中で、40代を迎えた彼ら自身の“生きるシンドさ”に向き合う力を得ていく。

Se7en

セブン

1996-01-27

定年退職間近の刑事サマセットと新人のミルズは、ある殺人現場に向かう。そこには肥満の大男の凄惨な死体があった。またほどなくして、今度はビジネスマンの死体が発見される。サマセットはそれぞれの現場に残されていた文字から、犯人がキリスト教における七つの大罪(傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・強欲・暴食・色欲)に因んだ殺人に及んでいると分析、残るは5件となった。事件を未然に防ごうと犯人の特定を急ぐ2人。やがて一人の男が容疑者に浮上、しかし接近するも取り逃がし、さらなる犠牲者を出してしまう。そんな中、大罪に沿った犯行が残り2件となったところで、犯人を名乗る男が自首して来るのだが…。