(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

2026.2.16

『魔女の宅急便』の近藤勝也が描く2人の少女が歩んだ夢への道|『パリに咲くエトワール』レビュー

2026年3月13日(金)公開の劇場アニメ映画『パリに咲くエトワール』は、1912年のパリを舞台に、画家を夢見る少女・フジコと、彼女と共にパリでバレエダンサーを目指す千鶴が、夢と現実のあいだで揺れながら成長していく過程を描いた物語です。

監督を務めるのは、『ONE PIECE FILM RED』などで知られる谷口悟朗。壮大なエンターテインメントを描いてきたその手腕が、本作では静かで繊細な物語表現へと向けられています。

キャラクター原案は、『魔女の宅急便』をはじめ数々の名作を手がけてきた近藤勝也。柔らかく温もりのある人物描写が、少女たちの感情の揺らぎを丁寧にすくい取ります。
美しい街並みと繊細な感情表現に包まれながら描かれるのは、それでも前へ進もうとする少女たちのたしかな輝きです。

近藤勝也のやわらかなタッチが息づく、温もりあるパリの街並みと暮らしの気配

『パリに咲くエトワール』レビュー_フジコとパリの街なみ

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

近藤勝也がキャラクター原案を務めていることもあり、登場人物たちは柔らかく、どこか温もりを感じさせる表情をしています。王道でシンプルな街並みと人物描写ながら、それらは単なる背景にとどまらず、少女たちの日常に寄り添うような存在感を放っていました。

線がやわらかく、自然な発色で描かれるパリの街並みには、どこか『魔女の宅急便』を思わせる生活の気配があります。パンの香りや、アパルトマンの住人が作る手作りジャムのような、ささやかな営みの温度が画面の隅々に宿っている。石畳の道や窓辺の光景からは、誰かがそこに暮らしているたしかな手触りが伝わってくるようでした。

指先に宿る感情──少女の成長を映すダンスの瞬間

本作の大きな見どころのひとつが、バレエの描写です。中でも特に印象的だったのは、踊り手たちの指先の美しさ。バレエは身体全体で表現する芸術でありながら、感情や意志は指先にまで宿るもの。その繊細な表現が丁寧に描かれており、思わず息をのむ場面が何度もありました。 私自身もバレエを習っていた経験があるため、厳しい稽古の空気や本番前に胸が高鳴る感覚が鮮明に蘇り、懐かしさと共に強く心を揺さぶられます。
『パリに咲くエトワール』レビュー_千鶴とバレエ

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

モーションキャプチャで生まれた、リアルで繊細なバレエ表現

『パリに咲くエトワール』レビュー_フジコ

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

本作のバレエ表現は、実際に踊り手の動きをモーションキャプチャで記録し、3DCGとして再現した映像を参考に、原画制作が行われました。ただ、そうした技術的な正確さだけでは捉えきれないものが、バレエにはたしかに存在します。身体の重心の微妙な移動や、床を捉える足先の意識、感情がにじむ指先の緊張感──それらは数値化できない感覚の領域。
本作のバレエが生き生きと感じられるのは、そうした細部にまで想像力と観察の目が行き届いているからだろうと思います。

夢を追う2人の少女、支え合う関係に見える揺らぎ

夢を追いかけてパリで再会した2人の少女は、互いに励まし合い、助け合いながら成長していきます。決して順風満帆とはいかず、迷いや挫折を抱えながらも、相手の存在があるからこそ前へ進める。その姿に胸が熱くなりました。

また、フジコが暮らすアパルトマンの住人や、夢に協力してくれる人々など、少女たちを見守り支える周囲の温かさも印象的です。誰かに信じてもらえることが、どれほど大きな力になるのかを改めて感じさせられました。
『パリに咲くエトワール』レビュー_フジコと千鶴

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

理想と現実のあいだで揺れるすべての人へ、本作が送る静かなエール

『パリに咲くエトワール』レビュー_フジコと千鶴

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

千鶴が夢に向かってひたむきにバレエへ打ち込み、少しずつ前へ進んでいく一方で、パリで数多くの優れた作品に触れたフジコは、自分の中での「正解」がわからなくなりはじめ、画家になるという夢を抱えながらも足踏みを続けています。前へ進む千鶴と、立ち止まるフジコ。その歩幅の違いが、2人の距離を浮かび上がらせていました。彼女は千鶴の背中を押しながら、自分の創作からほんの少し距離を置いているようにも見えます。

私自身、編集者として多くの作品にふれる中で、「正解」がわからなくなり、手が止まってしまう瞬間があります。優れた表現を知れば知るほど、自分の未熟さばかりが浮かび上がってしまう。千鶴が前進するほど、フジコの迷いがより鮮明に見えてくる構図は、表現の現場に身を置く者が抱える停滞と静かな恐れを思い起こさせました。

千鶴の上昇とフジコの揺らぎをそっと並べながら、「進むこと」と「立ち止まること」の両方を肯定する視線が、本作には流れているように感じます。理想と現実のあいだで立ち止まったことのあるすべての人へ、本作は静かなエールを送っているように思いました。

映画『パリに咲くエトワール』基本情報

■公開日:2026年3月13日(金)

■出演(声の出演):當真あみ、嵐莉菜
早乙女太一、門脇麦、尾上松也、角田晃広、津田健次郎
榊原良子、大塚明夫

■原作:谷口悟朗・BNF・ARVO

■監督:谷口悟朗

■脚本:吉田玲子

■キャラクター原案:近藤勝也

■主題歌:「風に乗る」 緑黄色社会 (ソニー・ミュージックレーベルズ)

■公式HP:https://sh-anime.shochiku.co.jp/parieto-movie/







 
『パリに咲くエトワール』レビュー_ポスター

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

近藤勝也のやわらかなタッチが息づく、温もりあるパリの街並みと暮らしの気配

『パリに咲くエトワール』レビュー_フジコとパリの街なみ

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

近藤勝也がキャラクター原案を務めていることもあり、登場人物たちは柔らかく、どこか温もりを感じさせる表情をしています。王道でシンプルな街並みと人物描写ながら、それらは単なる背景にとどまらず、少女たちの日常に寄り添うような存在感を放っていました。

線がやわらかく、自然な発色で描かれるパリの街並みには、どこか『魔女の宅急便』を思わせる生活の気配があります。パンの香りや、アパルトマンの住人が作る手作りジャムのような、ささやかな営みの温度が画面の隅々に宿っている。石畳の道や窓辺の光景からは、誰かがそこに暮らしているたしかな手触りが伝わってくるようでした。

指先に宿る感情──少女の成長を映すダンスの瞬間

『パリに咲くエトワール』レビュー_千鶴とバレエ

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

本作の大きな見どころのひとつが、バレエの描写です。中でも特に印象的だったのは、踊り手たちの指先の美しさ。バレエは身体全体で表現する芸術でありながら、感情や意志は指先にまで宿るもの。その繊細な表現が丁寧に描かれており、思わず息をのむ場面が何度もありました。 私自身もバレエを習っていた経験があるため、厳しい稽古の空気や本番前に胸が高鳴る感覚が鮮明に蘇り、懐かしさと共に強く心を揺さぶられます。

モーションキャプチャで生まれた、リアルで繊細なバレエ表現

『パリに咲くエトワール』レビュー_フジコ

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

本作のバレエ表現は、実際に踊り手の動きをモーションキャプチャで記録し、3DCGとして再現した映像を参考に、原画制作が行われました。ただ、そうした技術的な正確さだけでは捉えきれないものが、バレエにはたしかに存在します。身体の重心の微妙な移動や、床を捉える足先の意識、感情がにじむ指先の緊張感──それらは数値化できない感覚の領域。
本作のバレエが生き生きと感じられるのは、そうした細部にまで想像力と観察の目が行き届いているからだろうと思います。

夢を追う2人の少女、支え合う関係に見える揺らぎ

『パリに咲くエトワール』レビュー_フジコと千鶴

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

夢を追いかけてパリで再会した2人の少女は、互いに励まし合い、助け合いながら成長していきます。決して順風満帆とはいかず、迷いや挫折を抱えながらも、相手の存在があるからこそ前へ進める。その姿に胸が熱くなりました。

また、フジコが暮らすアパルトマンの住人や、夢に協力してくれる人々など、少女たちを見守り支える周囲の温かさも印象的です。誰かに信じてもらえることが、どれほど大きな力になるのかを改めて感じさせられました。

理想と現実のあいだで揺れるすべての人へ、本作が送る静かなエール

『パリに咲くエトワール』レビュー_フジコと千鶴

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

千鶴が夢に向かってひたむきにバレエへ打ち込み、少しずつ前へ進んでいく一方で、パリで数多くの優れた作品に触れたフジコは、自分の中での「正解」がわからなくなりはじめ、画家になるという夢を抱えながらも足踏みを続けています。前へ進む千鶴と、立ち止まるフジコ。その歩幅の違いが、2人の距離を浮かび上がらせていました。彼女は千鶴の背中を押しながら、自分の創作からほんの少し距離を置いているようにも見えます。

私自身、編集者として多くの作品にふれる中で、「正解」がわからなくなり、手が止まってしまう瞬間があります。優れた表現を知れば知るほど、自分の未熟さばかりが浮かび上がってしまう。千鶴が前進するほど、フジコの迷いがより鮮明に見えてくる構図は、表現の現場に身を置く者が抱える停滞と静かな恐れを思い起こさせました。

千鶴の上昇とフジコの揺らぎをそっと並べながら、「進むこと」と「立ち止まること」の両方を肯定する視線が、本作には流れているように感じます。理想と現実のあいだで立ち止まったことのあるすべての人へ、本作は静かなエールを送っているように思いました。

映画『パリに咲くエトワール』基本情報

『パリに咲くエトワール』レビュー_ポスター

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

■公開日:2026年3月13日(金)

■出演(声の出演):當真あみ、嵐莉菜
早乙女太一、門脇麦、尾上松也、角田晃広、津田健次郎
榊原良子、大塚明夫

■原作:谷口悟朗・BNF・ARVO

■監督:谷口悟朗

■脚本:吉田玲子

■キャラクター原案:近藤勝也

■主題歌:「風に乗る」 緑黄色社会 (ソニー・ミュージックレーベルズ)

■公式HP:https://sh-anime.shochiku.co.jp/parieto-movie/







 

早川真澄

ライター・編集者

北海道の情報誌の編集者として勤務し映画や観光、人材など地域密着の幅広いジャンルの制作を手掛ける。現在は編集プロダクションを運営し雑誌、webなど媒体を問わず企画制作を行っています。

point注目映画一覧(外部サイト)

The Odyssey

オデュッセイア

2026-09-11

トロイア戦争の終結後、イタケーの伝説的な王オデュッセウスは、故郷への長く危険に満ちた帰還の旅に出る。その航海の途上、彼は神々の気まぐれや神話の怪物たち、そして自身の知略と人間性の双方を極限まで試す過酷な試練に立ち向かうことを余儀なくされる――。

Digger

DIGGER/ディガー

2026-10-06

石油採掘会社のCEOとして君臨する傲慢な権力者、ディガー・ロックウェル。己の利益しか考えていない彼の欲深い行動のせいで、地球は滅亡の危機に陥ってしまう。大統領から事態の収拾を命じられたディガーは、世界を救うべくシャベルを片手に立ち上がるが……。

Heart of the Beast

ハート・オブ・ビースト

2026-09-25

アラスカ上空を飛行中、不意のアクシデントにより“魔の領域(ハート・オブ・ビースト)”と呼ばれる奥地に不時着した、退役兵のジェームズと元偵察犬で義足のオーディン。立ちはだかる大自然を乗り越え「生きて還る」には、愛する存在のためにすべてを捧げる覚悟が必要だった。

Backrooms

バックルームズ

2026-09-04

舞台は、都市伝説とされていた空間“Backrooms”。「ある日突然 “現実世界の裏側”へ墜ちてしまったら…?」どこまでも続く黄色い壁紙の部屋、終わりのない廊下。不自然な間取りと、意味を失い床に埋まった設置物。 わずかに現実からズレている――そんな出口のない“リミナルスペース”で、観客は“最高密度の不安と恐怖”を体験する。

Disclosure Day

ディスクロージャー・デイ

2026-10-01

気象キャスターのマーガレットとサイバーセキュリティのエキスパート、ダニエル。接点のないはずの二人が衝撃的な機密情報を知ることとなった。やがて、その秘密を明らかにする使命を負った彼らの前に謎の組織が立ちはだかる――。

The Dog Stars

ラスト・サバイバー

2026-08-28

謎のパンデミックにより人口の大半が失われ、生き残った者たちが奪い合いを繰り広げる荒廃した世界。パイロットのヒッグは、元軍人のバングリーと共同戦線を張ることで日々を生き延びていた。心の拠り所は、愛犬ジャスパーの存在と亡き妻の記憶だけ。そんなある日、彼のもとに無線を通じて謎の声が届く。世界の終わりになお希望が残されているかもしれないと考えたヒッグは、その声に導かれるように、未知の空へと飛び立つ決意を固める。だがその先に広がっていたのは、凶暴な動物や容赦ない襲撃者がはびこる、殺すか殺されるかの過酷な現実だった。

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉

2026-08-28

『叛逆の物語』の事件を経て、世界は表向き均衡を取り戻したかに見えた。しかし、その平和はあまりにも脆い。ワルプルギスの夜にまつわる新たな脅威が姿を現し始めたとき、暁美ほむらは自らが下した選択の代償と向き合うことになる——まどかを守るために、自分はどこまで踏み込む覚悟があるのか。