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2025.4.22

『異端者の家』が突きつける“正しさ”の恐怖 。ヒュー・グラントが新たな境地を魅せるサイコ・スリラー

信仰というテーマを深く掘り下げ、観客を知的でスリリングな世界へと誘う4月25日(金)公開の映画『異端者の家』。A24が仕掛ける異端の脱出サイコ・スリラーで、予測のつかない展開が次々と繰り広げられる本作は、昨年の北米公開時には初登場2位を獲得し、世界興行収入では同スタジオの人気作『ミッドサマー』(20)を超える驚異的な成果を収めました。

監督・脚本を務めるのは、『クワイエット・プレイス』(18)の脚本で注目を集めたスコット・ベックとブライアン・ウッズ。彼らの描く知的で圧迫感のある恐怖は、ホラー映画の枠を超えた新たな形を提示しています。信仰を揺さぶられ、選択を迫られた2人の宣教師がどのような真実に直面するのか、本作の魅力をレビューします。

『異端者の家』の気になるストーリー

異端者の家_場面写真

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若いモルモン教の宣教師、シスター・パクストン(クロエ・イースト)とシスター・バーンズ(ソフィー・サッチャー)は、布教のため森に囲まれた一軒家を訪れます。出迎えたのは、気さくな雰囲気の男性リード(ヒュー・グラント)。妻が在宅中と聞いて安心した2人は、家の中で話をすることに。

ところが、話を始めるとリードはあらゆる宗教に詳しく「どの宗教も真実とは思えない」と持論を語りはじめます。次第に空気は不穏になり、2人はその場を離れようとしますが、玄関には鍵がかかり、携帯の電波も通じません。

「教会から呼び出された」と嘘をついて帰ろうとする2人に対し、リードは家の奥にある2つの扉のどちらかから出るように促します。それは、彼女たちの“信仰心”を試す扉でした。

その先で待ち受けていたのは、逃げ場のない恐怖と、信じる心を揺るがす“真相”だった...。

ごく普通の家が本性を表す不気味な『異端者の家』

シスターたちが足を踏み入れたのは、ごく普通の温かみのある家。しかし、物語が進むにつれて彼女たちは家の“奥”へと導かれ、そこからじわじわと、この家の持つ異質さが露わに…。獲物を待ち受ける巨大な蜘蛛の巣のように、一見平穏でありながら、足を踏み入れた者を逃れられない絶望へと引きずり込んでいきます。

 そこに絡み合うのが、リードの知的で論理的な語り。言葉のひとつひとつがこの家の空気をさらに歪め、空間そのものが“思想”に感染していくような怖さが全編を覆っていきます。

 
異端者の家_場面写真

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異端者の家_場面写真

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“閉じ込め”の恐怖に加え、いつの間にか普通の家が“異端者の家”へと変貌していく…。その演出は、この作品のサイコ・スリラーとしての完成度を高め、心理的な不安と視覚的な違和感の波が重なり合うことで、観客にも逃げ場のない圧迫感が襲いかかります。

本作は、日常に潜む狂気が徐々に牙を剥き出し、信仰という名の拠り所を根こそぎ揺さぶり、精神の監獄へと変貌していく様を克明に描き出しています。ぜひ、この予測不能な恐怖の迷宮に足を踏み入れ、出口のない悪夢のような時間を体験してみてください。

“信じる”自分が崩されていく..精神的な恐怖の系譜

本作の恐怖の核心は、“閉じ込め”による緊迫感だけではありません。むしろ、自分が信じてきたものが静かに崩れていく...その心理的な揺らぎこそが最大の脅威です。物事を冷静に判断するシスター・バーンズと陽気で純朴なシスター・パクストンの性格は正反対ですが、信じている宗教で繋がっています。ですが、2人が信仰をするきっかけは異なるもの。知的で論理的なリードが語る「真なる唯一の宗教」とは何かという問いに翻弄される恐怖が2人が信じている自分自身を崩していきます。

特にパクストンの行動は印象的でした。自分で選択したというよりも疑問に思うことなく信仰しています。自分自身が強く信じている宗教ではない分、リードに問いかけられても、パクストンの返答は表層的で、質問の意図を深く理解していない様子が伝わります。それが、彼女の世間知らずな一面を際立たせていました。“信じる”という行為が他者から与えられたものである時、その脆さと危うさは、観る者に深い不安と恐れを刻み込みます。
異端者の家_場面写真

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ヒュー・グラントの新境地!優しさの裏に隠された狂気

異端者の家_場面写真

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本作でリードを演じるのは、“ロマンティック・コメディの帝王”として知られるヒュー・グラント。『ラブ・アクチュアリー』(04)や『ノッティングヒルの恋人』(99)などで魅力的な笑顔を見せてきた彼が、本作ではそのイメージを覆します。

これまでの優しい笑顔の裏に潜む“静かな狂気”を巧みに表現し、物語の緊張感を一気に高めています。彼の語り口は一見穏やかで紳士的。しかし、次第に言葉の端々に違和感や執着がにじみ出て、観客をじわじわと不安にさせます。
その“静けさゆえの不穏”は、これまでの彼のイメージを鮮やかに裏切り、観る者の記憶に深く刻まれるはず。

ヒュー・グラントの代表作を知っている方にこそ、本作の彼の演技をぜひ見てほしいと思わせるほど、挑戦的で鮮烈な存在感を放っています。

静かに精神が削られる怖さ、"正しさ"に追いつめられる恐怖

一見、気さくな家主のリードは宗教に深くのめり込み、自分自身が追求した唯一の宗教を見つけ出そうとしています。彼には、自分が信じている“正しさ”があり、巧みな話術と策略で自らの考えをシスターたちに唱え始めます。その姿には、じわじわと追いつめられる怖さを感じました。

筆者は本作を通じて、“正しさ”とは誰のためのものかということを考えさせられました。“こうあるべき”という価値観は人それぞれ異なり、自分の“正義”が他人を追い詰めることもあります。

あなたが信じるものは、誰かの“正しさ”とはどう違うのか?この映画は、そんな根源的な疑問を、静かに突きつけてきます。
“正しさ”とは一体何か?その答えをぜひ劇場で確かめてください。
異端者の家_場面写真

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『異端者の家』の基本情報

異端者の家_ポスター画像

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■タイトル:異端者の家

■公開日:4月25日(金)

■監督/脚本:スコット・ベック、 ブライアン・ウッズ

■キャスト:ヒュー・グラント、ソフィー・サッチャー、クロエ・イースト

■配給:ハピネットファントム・スタジオ

■公式HP:https://happinet-phantom.com/heretic/
 

『異端者の家』の気になるストーリー

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若いモルモン教の宣教師、シスター・パクストン(クロエ・イースト)とシスター・バーンズ(ソフィー・サッチャー)は、布教のため森に囲まれた一軒家を訪れます。出迎えたのは、気さくな雰囲気の男性リード(ヒュー・グラント)。妻が在宅中と聞いて安心した2人は、家の中で話をすることに。

ところが、話を始めるとリードはあらゆる宗教に詳しく「どの宗教も真実とは思えない」と持論を語りはじめます。次第に空気は不穏になり、2人はその場を離れようとしますが、玄関には鍵がかかり、携帯の電波も通じません。

「教会から呼び出された」と嘘をついて帰ろうとする2人に対し、リードは家の奥にある2つの扉のどちらかから出るように促します。それは、彼女たちの“信仰心”を試す扉でした。

その先で待ち受けていたのは、逃げ場のない恐怖と、信じる心を揺るがす“真相”だった...。

ごく普通の家が本性を表す不気味な『異端者の家』

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シスターたちが足を踏み入れたのは、ごく普通の温かみのある家。しかし、物語が進むにつれて彼女たちは家の“奥”へと導かれ、そこからじわじわと、この家の持つ異質さが露わに…。獲物を待ち受ける巨大な蜘蛛の巣のように、一見平穏でありながら、足を踏み入れた者を逃れられない絶望へと引きずり込んでいきます。

 そこに絡み合うのが、リードの知的で論理的な語り。言葉のひとつひとつがこの家の空気をさらに歪め、空間そのものが“思想”に感染していくような怖さが全編を覆っていきます。

 
異端者の家_場面写真

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“閉じ込め”の恐怖に加え、いつの間にか普通の家が“異端者の家”へと変貌していく…。その演出は、この作品のサイコ・スリラーとしての完成度を高め、心理的な不安と視覚的な違和感の波が重なり合うことで、観客にも逃げ場のない圧迫感が襲いかかります。

本作は、日常に潜む狂気が徐々に牙を剥き出し、信仰という名の拠り所を根こそぎ揺さぶり、精神の監獄へと変貌していく様を克明に描き出しています。ぜひ、この予測不能な恐怖の迷宮に足を踏み入れ、出口のない悪夢のような時間を体験してみてください。

“信じる”自分が崩されていく..精神的な恐怖の系譜

異端者の家_場面写真

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本作の恐怖の核心は、“閉じ込め”による緊迫感だけではありません。むしろ、自分が信じてきたものが静かに崩れていく...その心理的な揺らぎこそが最大の脅威です。物事を冷静に判断するシスター・バーンズと陽気で純朴なシスター・パクストンの性格は正反対ですが、信じている宗教で繋がっています。ですが、2人が信仰をするきっかけは異なるもの。知的で論理的なリードが語る「真なる唯一の宗教」とは何かという問いに翻弄される恐怖が2人が信じている自分自身を崩していきます。

特にパクストンの行動は印象的でした。自分で選択したというよりも疑問に思うことなく信仰しています。自分自身が強く信じている宗教ではない分、リードに問いかけられても、パクストンの返答は表層的で、質問の意図を深く理解していない様子が伝わります。それが、彼女の世間知らずな一面を際立たせていました。“信じる”という行為が他者から与えられたものである時、その脆さと危うさは、観る者に深い不安と恐れを刻み込みます。

ヒュー・グラントの新境地!優しさの裏に隠された狂気

異端者の家_場面写真

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本作でリードを演じるのは、“ロマンティック・コメディの帝王”として知られるヒュー・グラント。『ラブ・アクチュアリー』(04)や『ノッティングヒルの恋人』(99)などで魅力的な笑顔を見せてきた彼が、本作ではそのイメージを覆します。

これまでの優しい笑顔の裏に潜む“静かな狂気”を巧みに表現し、物語の緊張感を一気に高めています。彼の語り口は一見穏やかで紳士的。しかし、次第に言葉の端々に違和感や執着がにじみ出て、観客をじわじわと不安にさせます。
その“静けさゆえの不穏”は、これまでの彼のイメージを鮮やかに裏切り、観る者の記憶に深く刻まれるはず。

ヒュー・グラントの代表作を知っている方にこそ、本作の彼の演技をぜひ見てほしいと思わせるほど、挑戦的で鮮烈な存在感を放っています。

静かに精神が削られる怖さ、"正しさ"に追いつめられる恐怖

異端者の家_場面写真

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一見、気さくな家主のリードは宗教に深くのめり込み、自分自身が追求した唯一の宗教を見つけ出そうとしています。彼には、自分が信じている“正しさ”があり、巧みな話術と策略で自らの考えをシスターたちに唱え始めます。その姿には、じわじわと追いつめられる怖さを感じました。

筆者は本作を通じて、“正しさ”とは誰のためのものかということを考えさせられました。“こうあるべき”という価値観は人それぞれ異なり、自分の“正義”が他人を追い詰めることもあります。

あなたが信じるものは、誰かの“正しさ”とはどう違うのか?この映画は、そんな根源的な疑問を、静かに突きつけてきます。
“正しさ”とは一体何か?その答えをぜひ劇場で確かめてください。

『異端者の家』の基本情報

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■タイトル:異端者の家

■公開日:4月25日(金)

■監督/脚本:スコット・ベック、 ブライアン・ウッズ

■キャスト:ヒュー・グラント、ソフィー・サッチャー、クロエ・イースト

■配給:ハピネットファントム・スタジオ

■公式HP:https://happinet-phantom.com/heretic/
 

早川真澄

ライター・編集者

北海道の情報誌の編集者として勤務し映画や観光、人材など地域密着の幅広いジャンルの制作を手掛ける。現在は編集プロダクションを運営し雑誌、webなど媒体を問わず企画制作を行っています。

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