(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
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2025.5.14

『かくかくしかじか』レビュー|夢を諦めたくなる日、“描け”が背中を押す!東村アキコの話題作が実写化

人気漫画家・東村アキコが、自身の青春を振り返った実体験をもとに描いた『かくかくしかじか』が、待望の実写映画化。
5月16日(金)に公開される本作は、美大を目指す高校生・明子と、彼女を導いた絵画教師・日高先生との9年間を描く物語です。

私は原作者とほぼ同世代。この作品には、10代の自分との再会のような感覚を覚えました。今回はその魅力をひも解いていきます。

映画『かくかくしかじか』のストーリー


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

漫画家を夢見る高校生・明子(永野芽郁)は、美大受験のため絵画教室に通い始めます。 そこには、竹刀片手に怒号を飛ばす絵画教師・日高先生(大泉洋)が待っていました。常識外れの教室で厳しい指導に逃げ出しそうになりながらも、明子は少しずつ先生の不器用な優しさにふれて変わっていきます。 地元・宮崎から、石川、東京へ移り住む明子の成長と葛藤を描き、「描く」ことから目をそらし続けた9年間と、恩師とのかけがえのない日々が、静かによみがえるようでした。

詳しいあらすじ・キャスト情報はこちらもチェック
『かくかくしかじか』試写会レビュー記事

『かくかくしかじか』が描く、夢を追い続けた9年間のリアルな軌跡

この映画は、ただの成功物語ではありません。
迷い、逃げ、立ち止まりながら、それでも何かを手放さずに生き続ける──その過程そのものを、肯定する物語です。

夢を追うことの苦しさも、現実に折り合いをつける痛みも、すべてを抱えたまま、それでも前に進んでいく...。そして何より、同じ40代を生きる私にとって、90年代から2000年代初めの、あの少し不器用で、温かかった時代の空気は、胸が締めつけられるほどリアルでした。また、本作では、宮崎の自然風景が色鮮やかに映し出され、ありのままの景観の美しさが、未来を信じる小さな希望のように感じられました。

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宮崎の美しい自然と都会の対比が意味するもの


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

夢を追うことの苦しさや、現実と折り合いをつける痛み──。この映画は、そんな揺れ動く時間を、そのまま肯定してくれる作品です。

なかでも印象的なのが、舞台となる宮崎の風景。深い緑や広い空は、ただの背景ではなく、どこか日高先生自身のようにも見えました。
厳しさの中に温もりがあり、そっと明子を包み込む存在。風景が映るたび、彼のまなざしがよみがえり、作品に静かな優しさを添えていきます。

一方、明子は“都会=夢”を追い、部屋の広さや雰囲気も少しずつ変わっていきます。環境の変化は成功を象徴するものではなく、「描け」という言葉を受け止めた彼女の“心の広がり”を映すもの。

この“自然と都市”、“先生と明子”の対比が、作品に奥行きを与えています。

「描け」──日高先生のたったひと言が、心を揺さぶる

日高先生が何度も明子に投げかけたのは、たったひと言、「描け」。

時に怒鳴るような声に反発しながらも、その言葉はずっと彼女の中に残り続けます。

関和亮監督の演出は、そんな感情の起伏を繊細に描きます。怒号と静寂のコントラストやテンポ感のある編集が、9年間の“心の揺れ”をリズムとして伝えてくる。
特に、絵を描く静かなシーンと、叱咤の場面の緩急は秀逸で、呼吸のように作品に波を与えています。

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永野芽郁と大泉洋が宿した、“不器用なエール”のかたち


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

本作を支えるのは、やはり主演2人の演技です。

永野芽郁は、迷いと葛藤の中でもがく明子の心の揺れを、繊細なまなざしや間の取り方で表現します。怒鳴られて戸惑っていた彼女が、自らの弱さを受け入れ、再び“描く”ことに向き合っていく。その内面の変化を丁寧に体現していました。

一方、大泉洋演じる日高先生は、厳しさの裏にある情愛をにじませます。竹刀片手に怒鳴る迫力のなかに、どこか優しさが漂う。言葉で思いを伝えられない代わりに、怒りというかたちでしか表現できない人物像を、真摯に演じていました。

2人の演技が感情の波をつくり出し、セリフのない場面でも確かなキャッチボールが成立しています。“静かな熱”を帯びた名演でした。

迷い続けた時間が、今をつくる

夢に挫け、自分をごまかし、前に進めなくなる日々。明子は何度もつまずきながら、それでも“描くこと”を手放しませんでした。

若さは万能ではありません。失敗することもあれば、逃げ出したくなることもあります。それでも、この映画はそんな弱さを責めずに、そっと抱きしめてくれます。

9年間の迷いは、すべて“今の自分”をつくるための時間だったのだと静かに、そして力強く教えてくれる作品です。

映画を観ながらふと感じたのは、「正しいことを本気で言ってくれる大人」は、大人になるほど少なくなるということ。
叱るには、勇気と体力が必要です。日高先生のやり方は、今の時代にはそぐわないのかもしれません。でも、「諦めるな」と本気で言ってくれた日々の記憶こそが、人生の支えになるのではないでしょうか。

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映画『かくかくしかじか』が問いかけるもの


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

人生には、タイミングがあります。明子のように、向き合えなかったことや、取り返せない後悔を抱えて生きていくしかありません。

でも、遅れて届いた言葉や、ふいによみがえる記憶が、静かに背中を押してくれます。
『かくかくしかじか』は、過去を美化せず、痛みや弱さをまっすぐ見つめたうえで、それでも未来を描こうとする物語です。

もし今、夢に疲れている人がいたら──この映画は、きっと優しく力をくれるはずです。

映画『かくかくしかじか』の基本情報

■タイトル:『かくかくしかじか』

■公開表記:2025 年 5 月 16 日(金)公開

■配給:ワーナー・ブラザース映画

■キャスト:永野芽郁、大泉洋、見上愛、畑芽育、鈴木仁、神尾楓珠、津田健次郎、有田哲平、MEGUMI、大森南朋

■原作:東村アキコ

■監督:関和亮

■脚本:東村アキコ 伊達さん

■主題歌:MISAMO「Message」(ワーナーミュージック・ジャパン)

■公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/kakushika/

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映画『かくかくしかじか』のストーリー


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漫画家を夢見る高校生・明子(永野芽郁)は、美大受験のため絵画教室に通い始めます。 そこには、竹刀片手に怒号を飛ばす絵画教師・日高先生(大泉洋)が待っていました。常識外れの教室で厳しい指導に逃げ出しそうになりながらも、明子は少しずつ先生の不器用な優しさにふれて変わっていきます。 地元・宮崎から、石川、東京へ移り住む明子の成長と葛藤を描き、「描く」ことから目をそらし続けた9年間と、恩師とのかけがえのない日々が、静かによみがえるようでした。

詳しいあらすじ・キャスト情報はこちらもチェック
『かくかくしかじか』試写会レビュー記事

『かくかくしかじか』が描く、夢を追い続けた9年間のリアルな軌跡


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

この映画は、ただの成功物語ではありません。
迷い、逃げ、立ち止まりながら、それでも何かを手放さずに生き続ける──その過程そのものを、肯定する物語です。

夢を追うことの苦しさも、現実に折り合いをつける痛みも、すべてを抱えたまま、それでも前に進んでいく...。そして何より、同じ40代を生きる私にとって、90年代から2000年代初めの、あの少し不器用で、温かかった時代の空気は、胸が締めつけられるほどリアルでした。また、本作では、宮崎の自然風景が色鮮やかに映し出され、ありのままの景観の美しさが、未来を信じる小さな希望のように感じられました。

宮崎の美しい自然と都会の対比が意味するもの


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

夢を追うことの苦しさや、現実と折り合いをつける痛み──。この映画は、そんな揺れ動く時間を、そのまま肯定してくれる作品です。

なかでも印象的なのが、舞台となる宮崎の風景。深い緑や広い空は、ただの背景ではなく、どこか日高先生自身のようにも見えました。
厳しさの中に温もりがあり、そっと明子を包み込む存在。風景が映るたび、彼のまなざしがよみがえり、作品に静かな優しさを添えていきます。

一方、明子は“都会=夢”を追い、部屋の広さや雰囲気も少しずつ変わっていきます。環境の変化は成功を象徴するものではなく、「描け」という言葉を受け止めた彼女の“心の広がり”を映すもの。

この“自然と都市”、“先生と明子”の対比が、作品に奥行きを与えています。

「描け」──日高先生のたったひと言が、心を揺さぶる


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

日高先生が何度も明子に投げかけたのは、たったひと言、「描け」。

時に怒鳴るような声に反発しながらも、その言葉はずっと彼女の中に残り続けます。

関和亮監督の演出は、そんな感情の起伏を繊細に描きます。怒号と静寂のコントラストやテンポ感のある編集が、9年間の“心の揺れ”をリズムとして伝えてくる。
特に、絵を描く静かなシーンと、叱咤の場面の緩急は秀逸で、呼吸のように作品に波を与えています。

永野芽郁と大泉洋が宿した、“不器用なエール”のかたち


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

本作を支えるのは、やはり主演2人の演技です。

永野芽郁は、迷いと葛藤の中でもがく明子の心の揺れを、繊細なまなざしや間の取り方で表現します。怒鳴られて戸惑っていた彼女が、自らの弱さを受け入れ、再び“描く”ことに向き合っていく。その内面の変化を丁寧に体現していました。

一方、大泉洋演じる日高先生は、厳しさの裏にある情愛をにじませます。竹刀片手に怒鳴る迫力のなかに、どこか優しさが漂う。言葉で思いを伝えられない代わりに、怒りというかたちでしか表現できない人物像を、真摯に演じていました。

2人の演技が感情の波をつくり出し、セリフのない場面でも確かなキャッチボールが成立しています。“静かな熱”を帯びた名演でした。

迷い続けた時間が、今をつくる


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

夢に挫け、自分をごまかし、前に進めなくなる日々。明子は何度もつまずきながら、それでも“描くこと”を手放しませんでした。

若さは万能ではありません。失敗することもあれば、逃げ出したくなることもあります。それでも、この映画はそんな弱さを責めずに、そっと抱きしめてくれます。

9年間の迷いは、すべて“今の自分”をつくるための時間だったのだと静かに、そして力強く教えてくれる作品です。

映画を観ながらふと感じたのは、「正しいことを本気で言ってくれる大人」は、大人になるほど少なくなるということ。
叱るには、勇気と体力が必要です。日高先生のやり方は、今の時代にはそぐわないのかもしれません。でも、「諦めるな」と本気で言ってくれた日々の記憶こそが、人生の支えになるのではないでしょうか。

映画『かくかくしかじか』が問いかけるもの


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

人生には、タイミングがあります。明子のように、向き合えなかったことや、取り返せない後悔を抱えて生きていくしかありません。

でも、遅れて届いた言葉や、ふいによみがえる記憶が、静かに背中を押してくれます。
『かくかくしかじか』は、過去を美化せず、痛みや弱さをまっすぐ見つめたうえで、それでも未来を描こうとする物語です。

もし今、夢に疲れている人がいたら──この映画は、きっと優しく力をくれるはずです。

映画『かくかくしかじか』の基本情報


(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

■タイトル:『かくかくしかじか』

■公開表記:2025 年 5 月 16 日(金)公開

■配給:ワーナー・ブラザース映画

■キャスト:永野芽郁、大泉洋、見上愛、畑芽育、鈴木仁、神尾楓珠、津田健次郎、有田哲平、MEGUMI、大森南朋

■原作:東村アキコ

■監督:関和亮

■脚本:東村アキコ 伊達さん

■主題歌:MISAMO「Message」(ワーナーミュージック・ジャパン)

■公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/kakushika/

早川真澄

ライター・編集者

北海道の情報誌の編集者として勤務し映画や観光、人材など地域密着の幅広いジャンルの制作を手掛ける。現在は編集プロダクションを運営し雑誌、webなど媒体を問わず企画制作を行っています。

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