2026.3.29

「菓子店」と「おかゆ屋」が映画館? 帯広と東川に誕生した映像文化の拠点。持続可能なミニシアターへの道

閉館する映画館のニュースを目にする機会が少なくない昨今、自分たちのまわりでも老舗映画館が幕を閉じようとしている。一方で、多種多様なミニシアターが誕生している事実もあり、北海道も例外ではない。その一例が、帯広市にある「シアター亭」(大通南5)と、東川町で2月27日にオープンしたばかりの「ル・シネマ・キャトル」(東4号北2番地)である。
前者は、北海道を代表する菓子メーカーのひとつ「株式会社六花亭」が、2023年6月より自社施設を会場として、上映活動を行う「Blue red and blue」へ貸し出す形で運営されている。後者は「中国茶とおかゆ 奥泉」を営む齋藤裕樹さん・富士子さん夫妻が、店舗敷地内に新設したものだ。
これら2館は、名実ともに「ミニシアター(=映画館)」と呼ぶことができる。それは理念や志だけでなく、各都道府県にある興行組合に加入し、興行場法上の営業認可や建築基準法・消防法などの厳しい法的ハードルをクリアしているからだ。SASARU movieでは、これら2館の状況から映画館の開業・営業について模索したいと思う。

お菓子屋さんが立ち上げた「シアター亭」


センタースピーカーと投映する壁。黒い壁も塗装

ミニシアター立ち上げの発端は2022年8月のコロナ禍に始まった六花亭社員の有志による「読書会」。1年間の活動を経て、映画を通じた文化活動への発展を模索し、映画好きの社員や地元の教師らによる「草の根のサークル活動」に近い形態でスタートした。同社が支援していた野球関連のNPO法人「Blue red and blue」が運営し、基本的にはボランティアで人件費を抑える。映画館にしたい場所には、十勝最古の煉瓦造りの「旧三井金物店」(1912年築)を選定、同所は「サロンKyu」として社内行事のみに活用していた建物である。チケット発券には六花亭の店舗レジシステムを流用し、広報物も社内で制作するなど、既存のリソースを徹底活用し、事業の継続を図っている。
40席の鑑賞空間を構築、映像面ではDLP4Kプロジェクターを導入し、素材はBlu-ray上映。一般的な布製スクリーンではなく、イタリア産の漆喰「マルモリーノ」を施した壁面を投影面とし、音響面は映画館用の設備会社に依頼し、本格的なものが設置された。建物が映画館のための設計ではないことが悩みの種だが、スピーカー位置のミリ単位の調整、反響を抑えるために「ジョブオンシート」などの吸音・防音材の貼付など、より良い鑑賞環境の構築のため可能な限りの工夫を凝らしている。初期投資は約600万円。法的には「自主上映」の形態をとり、月4回までの開催制限を遵守しながら、入場料1,000円(コーヒー付)という高いコストパフォーマンスを実現している。

提供:六花亭


提供:六花亭

今後の目標として、シアター亭の川口准史さんは「大学生ボランティアの導入や、教育委員会との連携による「文化啓蒙活動」としての発展も視野に入れる」とコメント。過去15作品のうち12作品が完売(25年12月時点)。1作品につき2回上映され、延べ80人の枠は常に高い稼働率を誇り、客層の4〜5割は顔馴染みの固定客である。約180キロ離れた滝川市から3時間かけて来場するファンもおり、地域を越えた映画愛好家のコミュニティになっている様子だ。「シネマ太陽帯広」(西3南11)やプロジェクト始動時から相談先の「シアターキノ」(札幌市中央区南3西6)ともコミュニケーションをとり、十勝の「文化インフラ」を維持していく。

身の丈にあった運営を意識する「ル・シネマ・キャトル」

オーナーの齋藤裕樹さんは、都内のホテルや料理店で勤務した後、9年前に札幌で妻の富士子さんと「中国茶とおかゆ 奥泉」を開業。実は22歳の時にフランスへ留学して映画を学び、帰国後は映画会社で宣伝や映画祭などに携わった経歴を持つ。6年前に札幌市から東川町へ移住・移転するが、地方では単館系(大手メジャー配給ではない映画)の映画を観るために札幌まで遠出する必要があるという「文化格差」を実感。自身の映画への情熱に加え、地域に多様な価値観を提供できる「居場所」を作りたいとの思いから、自宅敷地内にミニシアターを建設することにした。

劇場入口と齋藤裕樹さん(2025年12月撮影)


音を通すための穴がないので映像がよりクリア(2025年12月撮影)

開業にあたっては、クラウドファンディングで目標を上回る約510万円を調達。
館内は1スクリーンで座席数は20席、寒冷地ならではの工夫として、エアコンの音を排除した空気循環システムや床暖房を導入。プロジェクターは身の丈に合った運営を重視して高額なDCP(※1)ではなく、あえてBlu-ray上映を選択。これは機材の10年ごとの更新に伴う多額の再投資リスクを回避し、経営を継続させるための決断だ。スクリーンは塗布型のペイントタイプで「OttO(オット)」(さいたま市大宮区)に続き、国内2例目だ。音響にこだわり、スピーカーの質や館内の壁の設計などを工夫する。また、旭川家具の産地かつ「家具の町」である東川町の特性を活かし、地元の職人制作の椅子を設置。ミニシアターとしては一人ひとりの座席スペースを広く確保し、ゆったりと映画を楽しめる鑑賞環境を整えている。
 
自宅敷地内の「はなれ」を活用しているため、家賃負担がなく、運営は齋藤裕樹さんと富士子さんの夫婦二人三脚で行われる。外部の人件費をかけず、固定費を最小限に抑えることで、利益追求ではなく「トントン(収支均衡)」で持続可能な経営を目指す。
館名の「キャトル(フランス語で4)」には、住所の「東4号」、月4本の上映、四季、そして多様なラインナップという4つの意味がある。また、併設する「奥泉」の中華まんや本格的な中国茶を楽しみながら映画を観られる。上映作品は、クチコミが広がる時間を確保するため最低1ヶ月間上映し、地域住民や観光客が日常的に足を運べる環境を狙う。日本最北のミニシアター「LE CINEMA QUATRE(ル・シネマ・キャトル)」、人口約8700人の「写真の町」に現れたこの小さな映画館は、地域の文化拠点として注目されている。

※1:デジタル・シネマ・パッケージの略。現在の映画館における標準的な上映規格。高画質・高音質な上映が可能だが、機材導入や高額の更新費用が膨大であり、昨今では設備更新ができないミニシアターの事業継続を阻む大きな課題となっている。
 

映画館になる「はなれ」(2025年12月撮影)

映画館を爆誕させる近道はある?


シアター亭入口

映画や映画館を愛する方であれば、一度は映画館経営に憧れを抱くのではないだろうか。
では、実際に映画館をつくることは、難しいことなのか?

その答えは「YES」であり、同時に「NO」と言えるポテンシャルも秘めている。他のビジネスと同様、やる気と覚悟。そして、大きな課題は建設資金、立地、物件環境、そして固定費だ。また、順当に映画館を開業できたからと言って、オーナーが上映したい作品を何でも自由に興行できるわけではない。上映期間や回数の規定があったり、商圏内に老舗館やシネコンがある場合、ヒットが見込まれる新作の「初日からの上映(=封切)」を配給会社と契約することは容易ではない。また、オーナーがこだわって選定した作品が、地域のお客様のニーズに合致し、動員を継続できるかも極めて重要な焦点となる。
今回紹介させていただいた2館(シアター亭、ル・シネマ・キャトル)に共通して言えるのは、まず物件との出会いに恵まれていた点。そして、映画興行のみを事業の核とするのではなく、業界の実態を冷静に調査・経験した上で、自身の事業スケールに見合った運営手法を選択・実行している。例えば、DCPの導入を見送る判断は、コストを抑えられる一方で上映可能な作品に制限が生じるリスクもあるが、それも一つの「選択」だ。映画も一つのビジネスである。エンターテインメントや文化はロマンや理想だけで成り立つものではなく、映画産業との協調性も欠かせない。こうした地に足のついた事業形態こそが地域の文化を守り、映画館を持続させる道なのではないだろうか。
スクリーンを立て、プロジェクターで投影し、椅子を並べて観客が座れば、そこは「映画館のような場所」にはなる。しかし、それはあくまで「のような場所」だ。
もちろん、映画館以外での映画体験や製品の売り文句を否定するわけではない。だが「映画館」という名を掲げ、構造設備(天井の高さ、入口の数、防音・防火対策等)や公衆衛生(トイレの個数、水飲み場等)に至るまで、極めて高い法的基準をクリアしなければならない。それらを一つひとつ乗り越えるプロセスには並々ならぬ奮闘と苦労があり、行程に近道はない。本記事を通じて、映画館という「ハコ」を維持し続ける舞台裏にある熱意と、直面するシビアな現実を少しでも知っていただければ嬉しい。

ル・シネマ・キャトル前

お菓子屋さんが立ち上げた「シアター亭」


センタースピーカーと投映する壁。黒い壁も塗装

ミニシアター立ち上げの発端は2022年8月のコロナ禍に始まった六花亭社員の有志による「読書会」。1年間の活動を経て、映画を通じた文化活動への発展を模索し、映画好きの社員や地元の教師らによる「草の根のサークル活動」に近い形態でスタートした。同社が支援していた野球関連のNPO法人「Blue red and blue」が運営し、基本的にはボランティアで人件費を抑える。映画館にしたい場所には、十勝最古の煉瓦造りの「旧三井金物店」(1912年築)を選定、同所は「サロンKyu」として社内行事のみに活用していた建物である。チケット発券には六花亭の店舗レジシステムを流用し、広報物も社内で制作するなど、既存のリソースを徹底活用し、事業の継続を図っている。

提供:六花亭

40席の鑑賞空間を構築、映像面ではDLP4Kプロジェクターを導入し、素材はBlu-ray上映。一般的な布製スクリーンではなく、イタリア産の漆喰「マルモリーノ」を施した壁面を投影面とし、音響面は映画館用の設備会社に依頼し、本格的なものが設置された。建物が映画館のための設計ではないことが悩みの種だが、スピーカー位置のミリ単位の調整、反響を抑えるために「ジョブオンシート」などの吸音・防音材の貼付など、より良い鑑賞環境の構築のため可能な限りの工夫を凝らしている。初期投資は約600万円。法的には「自主上映」の形態をとり、月4回までの開催制限を遵守しながら、入場料1,000円(コーヒー付)という高いコストパフォーマンスを実現している。

提供:六花亭

今後の目標として、シアター亭の川口准史さんは「大学生ボランティアの導入や、教育委員会との連携による「文化啓蒙活動」としての発展も視野に入れる」とコメント。過去15作品のうち12作品が完売(25年12月時点)。1作品につき2回上映され、延べ80人の枠は常に高い稼働率を誇り、客層の4〜5割は顔馴染みの固定客である。約180キロ離れた滝川市から3時間かけて来場するファンもおり、地域を越えた映画愛好家のコミュニティになっている様子だ。「シネマ太陽帯広」(西3南11)やプロジェクト始動時から相談先の「シアターキノ」(札幌市中央区南3西6)ともコミュニケーションをとり、十勝の「文化インフラ」を維持していく。

身の丈にあった運営を意識する「ル・シネマ・キャトル」


劇場入口と齋藤裕樹さん(2025年12月撮影)

オーナーの齋藤裕樹さんは、都内のホテルや料理店で勤務した後、9年前に札幌で妻の富士子さんと「中国茶とおかゆ 奥泉」を開業。実は22歳の時にフランスへ留学して映画を学び、帰国後は映画会社で宣伝や映画祭などに携わった経歴を持つ。6年前に札幌市から東川町へ移住・移転するが、地方では単館系(大手メジャー配給ではない映画)の映画を観るために札幌まで遠出する必要があるという「文化格差」を実感。自身の映画への情熱に加え、地域に多様な価値観を提供できる「居場所」を作りたいとの思いから、自宅敷地内にミニシアターを建設することにした。

音を通すための穴がないので映像がよりクリア(2025年12月撮影)

開業にあたっては、クラウドファンディングで目標を上回る約510万円を調達。
館内は1スクリーンで座席数は20席、寒冷地ならではの工夫として、エアコンの音を排除した空気循環システムや床暖房を導入。プロジェクターは身の丈に合った運営を重視して高額なDCP(※1)ではなく、あえてBlu-ray上映を選択。これは機材の10年ごとの更新に伴う多額の再投資リスクを回避し、経営を継続させるための決断だ。スクリーンは塗布型のペイントタイプで「OttO(オット)」(さいたま市大宮区)に続き、国内2例目だ。音響にこだわり、スピーカーの質や館内の壁の設計などを工夫する。また、旭川家具の産地かつ「家具の町」である東川町の特性を活かし、地元の職人制作の椅子を設置。ミニシアターとしては一人ひとりの座席スペースを広く確保し、ゆったりと映画を楽しめる鑑賞環境を整えている。
 

映画館になる「はなれ」(2025年12月撮影)

自宅敷地内の「はなれ」を活用しているため、家賃負担がなく、運営は齋藤裕樹さんと富士子さんの夫婦二人三脚で行われる。外部の人件費をかけず、固定費を最小限に抑えることで、利益追求ではなく「トントン(収支均衡)」で持続可能な経営を目指す。
館名の「キャトル(フランス語で4)」には、住所の「東4号」、月4本の上映、四季、そして多様なラインナップという4つの意味がある。また、併設する「奥泉」の中華まんや本格的な中国茶を楽しみながら映画を観られる。上映作品は、クチコミが広がる時間を確保するため最低1ヶ月間上映し、地域住民や観光客が日常的に足を運べる環境を狙う。日本最北のミニシアター「LE CINEMA QUATRE(ル・シネマ・キャトル)」、人口約8700人の「写真の町」に現れたこの小さな映画館は、地域の文化拠点として注目されている。

※1:デジタル・シネマ・パッケージの略。現在の映画館における標準的な上映規格。高画質・高音質な上映が可能だが、機材導入や高額の更新費用が膨大であり、昨今では設備更新ができないミニシアターの事業継続を阻む大きな課題となっている。
 

映画館を爆誕させる近道はある?


シアター亭入口

映画や映画館を愛する方であれば、一度は映画館経営に憧れを抱くのではないだろうか。
では、実際に映画館をつくることは、難しいことなのか?

その答えは「YES」であり、同時に「NO」と言えるポテンシャルも秘めている。他のビジネスと同様、やる気と覚悟。そして、大きな課題は建設資金、立地、物件環境、そして固定費だ。また、順当に映画館を開業できたからと言って、オーナーが上映したい作品を何でも自由に興行できるわけではない。上映期間や回数の規定があったり、商圏内に老舗館やシネコンがある場合、ヒットが見込まれる新作の「初日からの上映(=封切)」を配給会社と契約することは容易ではない。また、オーナーがこだわって選定した作品が、地域のお客様のニーズに合致し、動員を継続できるかも極めて重要な焦点となる。
今回紹介させていただいた2館(シアター亭、ル・シネマ・キャトル)に共通して言えるのは、まず物件との出会いに恵まれていた点。そして、映画興行のみを事業の核とするのではなく、業界の実態を冷静に調査・経験した上で、自身の事業スケールに見合った運営手法を選択・実行している。例えば、DCPの導入を見送る判断は、コストを抑えられる一方で上映可能な作品に制限が生じるリスクもあるが、それも一つの「選択」だ。映画も一つのビジネスである。エンターテインメントや文化はロマンや理想だけで成り立つものではなく、映画産業との協調性も欠かせない。こうした地に足のついた事業形態こそが地域の文化を守り、映画館を持続させる道なのではないだろうか。

ル・シネマ・キャトル前

スクリーンを立て、プロジェクターで投影し、椅子を並べて観客が座れば、そこは「映画館のような場所」にはなる。しかし、それはあくまで「のような場所」だ。
もちろん、映画館以外での映画体験や製品の売り文句を否定するわけではない。だが「映画館」という名を掲げ、構造設備(天井の高さ、入口の数、防音・防火対策等)や公衆衛生(トイレの個数、水飲み場等)に至るまで、極めて高い法的基準をクリアしなければならない。それらを一つひとつ乗り越えるプロセスには並々ならぬ奮闘と苦労があり、行程に近道はない。本記事を通じて、映画館という「ハコ」を維持し続ける舞台裏にある熱意と、直面するシビアな現実を少しでも知っていただければ嬉しい。

矢武兄輔

まちのえいが屋さん/キャプテン・ポップコーン

20歳の1月。札幌映画サークルに入会直後、さぬき映画祭への参加で『踊る大捜査線』の製作陣や深田晃司監督と出逢い、映画界の現実や地方から発信するエンタメの可能性を知る。そこから「映画館へ行く人を増やす」という目標を持ち、カネゴンを呼んでみたり、学生向け媒体をつくったり、休学して東京国際映画祭で勤務、映画館へ就職→退職→「矢武企画」を起業からの今は某局でラジオDJ。 すべては『踊る』の完結が始まりだった。そして、踊るプロジェクト再始動と共に…! ということで、皆さんにとって映画がもっと近くなれますように。

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