2026.4.1

書籍も映画も大ヒット『どうすればよかったか?』藤野監督、舞台挨拶で海外の反応や困難な家庭内ケアに言及

3月21日(土)からドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』のアンコール上映が「シアターキノ」(中央区南3西6)でスタート。本作は2024年12月に全国4館で公開され、口コミで145館まで拡大上映し、ドキュメンタリー映画としては異例の興行収入2.3億円(25年12月時点)を記録しています。
今回のアンコール上映は、書籍版が文藝春秋から1月29日(木)に発売したことを記念し、ミニシアター「ポレポレ東中野」(東京都)から行われました。既に書籍は発売前から重版が決定。Filmarks Awards 2025の国内映画ミニシアター部門で最優秀賞を受賞し、公民館など非劇場上映から国内外の映画祭まで劇場公開から1年以上経っても観客が詰めかける関心の高い記録映画です。シアターキノでは1週間で上映終了予定でしたが初日の反応から急遽2週間上映で調整する方向に。
SASARU movieでは、21日(土)に同館で実施された藤野知明監督の舞台挨拶をリポートします。
 

(text/photo|矢武兄輔[キャプテン・ポップコーン])

家の中を記録するキッカケは道外への就職


(C)2024動画工房ぞうしま

シアターキノでは、24年12月から25年4月まで大ロングラン上映され、今回の舞台挨拶でも満席の場内に呼びかけたところ、ほとんどは初見の観客ばかりでした。
本作は、藤野監督自身のお姉さんが統合失調症を83年に発症し、その現実に向き合えない両親と家族の姿を92年から20年以上にわたって記録したドキュメンタリー映画です。
しかし、一般的なドキュメンタリー作品と違い、本作に「企画書」はありません。なぜなら、精神疾患のお姉さんと、それを認めない両親との間で家族関係が壊れかけていたことがキッカケだったからです。
カメラを回し始めたのは、監督自身が「自分も暴力を振るってしまうかもしれない」と危惧し、札幌の実家を出る決意をしたこと。そして「家を出てしまったら、家の中で何が起きているか分からなくなってしまう」。その思考が、“記録”の原点。
発症から9年経った92年、大学4年生だった監督は、まず声だけの録音を開始。さらにそこから9年後の01年からはビデオカメラを手にし、家族の行事など“ホームビデオ”を撮影するフリをして、少しずつ「20年間にわたって家の中で何が起きていたのか」を記録し始めました。監督は「当初は公開する意図はなく、あくまで家族の限界を確認するための個人的な記録」と話します。

「この映像を世に出す意味がある」

上映後の質疑応答では、観客から特に印象的だったシーンについて質問がありました。それは、父親の額の怪我について監督が質問する場面です。
「父は、夜中に冷蔵庫のものを食べてしまう姉を阻止しようと、冷蔵庫の前に小さな絨毯を敷いて寝るようになっていました。そこで姉と衝突し、転倒して頭を打ったのではないか、と直感していました」と監督は振り返ります。
しかし、父親は理由を語りません。
「本来であれば医療につながるべき状況なのに、親が抱え込んだことで物理的な限界が来ている。その状態を確認したかった」と、当時の切実な心境を思い起こします。
また、お姉さんの「統合失調症」との向き合い方についても言及します。
家庭裁判所を通じてお姉さんの権利の一部制限や3ヶ月の措置入院、退院後の服薬を巡る母親との対立など、壮絶な舞台裏が明かされます。「薬を『“麻”薬だ!』と言い張る母を前に、毎日2時間、姉を説得してようやく1日1回飲んでもらう。そんな日々でした」。監督の言葉からは、孤立した家庭内でのケアがいかに困難であるかが、映画同様に浮き彫りになります。そして、21年にお姉さんが62歳で他界し、監督は「この映像を世に出す意味がある」と本作の編集を決意します。

(C)2024動画工房ぞうしま

家庭の中で孤立する家族の苦しみは海外でも共通している


舞台挨拶終了後のサイン会も大行列、相談や質問も絶えず!

本作は日本国内に留まらず、世界の映画祭でも大きな衝撃を与えました。舞台挨拶で監督は、海外の観客との交流についても触れます。「台湾では観客の層が非常に若く、20代、30代が中心でした。彼らは、私(=息子、弟目線)と同じ『子供の視点』でこの家族を見つめていたのが印象的でした。一方、ドイツをはじめとするヨーロッパでは、人権意識の違いから『なぜ日本はまだこんな状況なのか』と批判的に受け止められるかと思っていましたが、実際は違いました。『この状況はよく分かる』と、自分たちの身近な問題として深い共感が寄せられたのです」と、密室となった家庭の中で孤立する家族の苦しみは海外でも共通していることを観客へ伝えます。
終盤には次回作も言及。監督がプロデューサーを務め、本作のプロデューサーだった淺野由美子さんが監督を務めるという、本作とは逆の立場で制作された『遊歩:ノーボーダー』(26)。このドキュメンタリー映画について監督は「私の映画は、どうすればよかったのか、何ができなかったのかという『後悔』の記録です。対して、6月から公開される新作『遊歩:ノーボーダー』は、障がいを持ちながらもアクティブに活動する女性を描いた非常にポジティブな作品」と紹介し、舞台挨拶を終了しました。
 
なお、筆者がこの作品や書籍に大きく惹かれる点は、監督のカメラを通した内容が常に「客観的な視点」だからです。全国4館からスタートし、決して市場規模的には大きくはない作品がここまで広がりを見せた背景には、“切実さ”“誠実さ”、そして“現実への問い”が、映像を通して観る者に届いているからではないでしょうか。
 

販売中の書籍と新作のフライヤーを持つ淺野由美子プロデューサー

家の中を記録するキッカケは道外への就職


(C)2024動画工房ぞうしま

シアターキノでは、24年12月から25年4月まで大ロングラン上映され、今回の舞台挨拶でも満席の場内に呼びかけたところ、ほとんどは初見の観客ばかりでした。
本作は、藤野監督自身のお姉さんが統合失調症を83年に発症し、その現実に向き合えない両親と家族の姿を92年から20年以上にわたって記録したドキュメンタリー映画です。
しかし、一般的なドキュメンタリー作品と違い、本作に「企画書」はありません。なぜなら、精神疾患のお姉さんと、それを認めない両親との間で家族関係が壊れかけていたことがキッカケだったからです。
カメラを回し始めたのは、監督自身が「自分も暴力を振るってしまうかもしれない」と危惧し、札幌の実家を出る決意をしたこと。そして「家を出てしまったら、家の中で何が起きているか分からなくなってしまう」。その思考が、“記録”の原点。
発症から9年経った92年、大学4年生だった監督は、まず声だけの録音を開始。さらにそこから9年後の01年からはビデオカメラを手にし、家族の行事など“ホームビデオ”を撮影するフリをして、少しずつ「20年間にわたって家の中で何が起きていたのか」を記録し始めました。監督は「当初は公開する意図はなく、あくまで家族の限界を確認するための個人的な記録」と話します。

「この映像を世に出す意味がある」

上映後の質疑応答では、観客から特に印象的だったシーンについて質問がありました。それは、父親の額の怪我について監督が質問する場面です。
「父は、夜中に冷蔵庫のものを食べてしまう姉を阻止しようと、冷蔵庫の前に小さな絨毯を敷いて寝るようになっていました。そこで姉と衝突し、転倒して頭を打ったのではないか、と直感していました」と監督は振り返ります。
しかし、父親は理由を語りません。
「本来であれば医療につながるべき状況なのに、親が抱え込んだことで物理的な限界が来ている。その状態を確認したかった」と、当時の切実な心境を思い起こします。

(C)2024動画工房ぞうしま

また、お姉さんの「統合失調症」との向き合い方についても言及します。
家庭裁判所を通じてお姉さんの権利の一部制限や3ヶ月の措置入院、退院後の服薬を巡る母親との対立など、壮絶な舞台裏が明かされます。「薬を『“麻”薬だ!』と言い張る母を前に、毎日2時間、姉を説得してようやく1日1回飲んでもらう。そんな日々でした」。監督の言葉からは、孤立した家庭内でのケアがいかに困難であるかが、映画同様に浮き彫りになります。そして、21年にお姉さんが62歳で他界し、監督は「この映像を世に出す意味がある」と本作の編集を決意します。

家庭の中で孤立する家族の苦しみは海外でも共通している


舞台挨拶終了後のサイン会も大行列、相談や質問も絶えず!

本作は日本国内に留まらず、世界の映画祭でも大きな衝撃を与えました。舞台挨拶で監督は、海外の観客との交流についても触れます。「台湾では観客の層が非常に若く、20代、30代が中心でした。彼らは、私(=息子、弟目線)と同じ『子供の視点』でこの家族を見つめていたのが印象的でした。一方、ドイツをはじめとするヨーロッパでは、人権意識の違いから『なぜ日本はまだこんな状況なのか』と批判的に受け止められるかと思っていましたが、実際は違いました。『この状況はよく分かる』と、自分たちの身近な問題として深い共感が寄せられたのです」と、密室となった家庭の中で孤立する家族の苦しみは海外でも共通していることを観客へ伝えます。

販売中の書籍と新作のフライヤーを持つ淺野由美子プロデューサー

終盤には次回作も言及。監督がプロデューサーを務め、本作のプロデューサーだった淺野由美子さんが監督を務めるという、本作とは逆の立場で制作された『遊歩:ノーボーダー』(26)。このドキュメンタリー映画について監督は「私の映画は、どうすればよかったのか、何ができなかったのかという『後悔』の記録です。対して、6月から公開される新作『遊歩:ノーボーダー』は、障がいを持ちながらもアクティブに活動する女性を描いた非常にポジティブな作品」と紹介し、舞台挨拶を終了しました。
 
なお、筆者がこの作品や書籍に大きく惹かれる点は、監督のカメラを通した内容が常に「客観的な視点」だからです。全国4館からスタートし、決して市場規模的には大きくはない作品がここまで広がりを見せた背景には、“切実さ”“誠実さ”、そして“現実への問い”が、映像を通して観る者に届いているからではないでしょうか。
 

矢武兄輔

まちのえいが屋さん/キャプテン・ポップコーン

20歳の1月。札幌映画サークルに入会直後、さぬき映画祭への参加で『踊る大捜査線』の製作陣や深田晃司監督と出逢い、映画界の現実や地方から発信するエンタメの可能性を知る。そこから「映画館へ行く人を増やす」という目標を持ち、カネゴンを呼んでみたり、学生向け媒体をつくったり、休学して東京国際映画祭で勤務、映画館へ就職→退職→「矢武企画」を起業からの今は某局でラジオDJ。 すべては『踊る』の完結が始まりだった。そして、踊るプロジェクト再始動と共に…! ということで、皆さんにとって映画がもっと近くなれますように。

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