2月21(金)より順次公開された映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』は、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻の最前線で、動物たちの命を救おうと奔走する人々を3年間にわたって取材したドキュメンタリー映画。命の危険にさらされている犬たち、そして世界中から集まった動物愛護団体の人々の救出活動が記録されています。
今回、SASARU movieでは本作の山田あかね監督に独占インタビュー。映画製作の背景や撮影の裏側、戦地にいる犬たちの状況をしっかりとお伝えします。

2011年の東日本大震災の時も福島第一原子力発電所20km圏内に入ったことがあるので、どこに行ってもあまり怖いという感覚がなく、もっと知りたい、何があるのだろうという気持ちの方が勝ってしまうんです。ボロディアンカの悲惨な画を見た時も「こんなの嫌だ」という風にならなくて、「どうしてこうなったんだろう」と。
それを知りたい、誰が撮ったの?何なの?ということを知りたい。細部の出来事を知りたい思いが強いですかね。高い理想があってやっているわけではないですが、やはり「これは何なんだろう」と思うじゃないですか。分からないからそのままにしておけなくて。
私も驚きました。野良犬たちは体格も良いんですよね。ウクライナは農業国なので、国土が広いこともあって、動物と人間の距離が近いのだと思います。人間が来ても逃げないし、耳にイヤータグを付けているのですが、あの街だけで約500匹いると聞きました。レストランに犬が入ってきても誰も驚かない。動物と人間の距離が近いのだと思います。
日本の動物愛護法の場合、猫は地域猫として生きていけますが、犬の場合やっぱり狂犬病予防法があるため、1回捕まえて元の場所に放すことが法的にできません。日本は、衛生管理を徹底している国なので難しいだろうなとは思いますね。法的機関でも一部の動物愛護センター、動物愛護団体などと協力して、安価で手術を行うところはあります。

(C)『犬と戦争』製作委員会

私たちがやっているハナコプロジェクトは行政のお手伝いをしているので、多頭飼育崩壊が起きた場合、飼い主さんが手術できない時に獣医さんの派遣を行って費用を負担するという形です。
――戦争や震災が起きた時にこの活動が定着化していると、どうしても置いていかなければならない時に繁殖してしまうということも防げますよね。
そうですね。東日本大震災の時は繁殖してしまってましたね。
――ウクライナだと避妊・去勢手術が定番化しているから戦争になった時も保護した犬の手術をしなければならないということが少なそうですよね。
手術済みの犬が多いです。ほとんどですね。
▼山田あかね監督が代表を務める「ハナコプロジェクト」の詳細はこちら
https://hana-pro.com/
多くの犬が命を落としたボロディアンカのシェルターに最初に駆けつけたのがウクライナのフボスタタ・バンダという愛護団体のメンバーで、その1人のアナスタシアは、ごく普通の犬が好きなボランティアでした。シェルターを少し手伝っているという人だったのですが、犬たちが閉じ込められた悲劇的な事件があり、その場に駆けつけられなかったことで多くの犬が命を落としてしまった。
同じようにウクライナの様々なところが戦地になって、そこでまた動物が閉じ込められているのではないか、置き去りにされているのではないかと思うようになって、救援物資を送ったり、チームのメンバーと現地に行って助けられる犬を助けようという風にすごく変わったんですよね。普通の女の子があの事件を経て、しっかりとした動物愛護団体になって活動している。戦争はひどい目に遭って気持ちが落ち込んでしまい精神的に不安定になる人もたくさんいると思うのですが、戦争によって強くなっていく。
人に頼っていては犬の命が失われてしまうと思い、自分でやるようになったように、戦争によって強くなる人がいるのだなというのが印象的でした。

(C)『犬と戦争』製作委員会

(C)『犬と戦争』製作委員会
私が行ったシェルターでは、攻撃的な犬は見なかったです。「助けてくれてありがとう」というフレンドリーな雰囲気でした。ただ、爆撃を受けたゴストメルでは精神が乱れた子がいたという話は聞きましたが多くはありません。
――映像を観るとシェルターで楽しそうに走り回っている犬が多かったですよね。
人間はミサイルが落ちたとなると気分も落ち込み、世界の終わりのように感じてしまいますが、犬はご飯も水もあって走れる、今日を楽しく生きるという姿が人間とは違いました。
犬は強いですね。
犬は人間が怪我をしていても関係なく寄り添うのでみんな犬に手を伸ばします。何をするわけでもなく犬にさわりながら周りの人と会話が生まれていました。皆さん、戦争の話はしたがらないので犬の話をして笑っていました。その中で少しずつ気持ちが楽になっていくように感じましたね。
――映画にもありましたが、日本のメディアでウクライナの犬たちの状況があまり伝えられないのは、日本の動物福祉の概念が根付いていないということも影響していると感じました。この点についてはいかがですか?
日本は、人間の方が大事だという想いがすごく強いですね。ヨーロッパだと人間が動物をきちんと管理しなければという想いが強いから動物を助ける行動をしても違和感を抱く人はいないし、避難所にも入れる。そこは違いかもしれないですね。

(C)BREAKING THE CHAINS

(C)『犬と戦争』製作委員会
この映画は、動物を助けている人の話ですが、助けている人も含めて、人間がいかに動物に助けられているかを感じました。動物救助隊のトムもPTSDから復活できたのは犬のおかげだと言っています。それがきっかけで彼は激戦地に行っていますが、自分は動物を救うことが使命だと思うことで、自分を支えてるんだなと思います。
人間同士ではどうしても癒やすことができないような部分を動物が助けている。戦争だからこそ、人間が起こした最悪の事態だからこそ逆に動物が必要、犬猫が必要なんだなと思いました。
今回の取材は行くかどうか迷ったんですよね。戦禍とはいえ怖い出来事がなかったという点もありますが行って良かったと思います。
以前、東日本大震災でも福島第一原子力発電所20km圏内の近くまで取材に行きましたが、やはり被爆したらと考えてしまって行くのをやめたことがありました。でも、翌日から制限区域になってしまい撮影で入れなくなってしまったということがあり、それ以降は迷ったら行くと決めています。ウクライナも迷っても撮影に行ったことでこの映画が出来上がったのだと思いますね。
――犬や猫をテーマにした次回作を作りたいというお考えはありますか?
動物救助隊のトムの活動については、今回の映画の中ではほんの一部だったので彼をちゃんと撮りたいという思いはあります。
映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』(G)は、シアターキノで3月14日(金)まで絶賛上映中。本作には、戦争直後の映像や危険な状況に置かれている動物の映像もあるのでご留意ください。

(C)『犬と戦争』製作委員会

2011年の東日本大震災の時も福島第一原子力発電所20km圏内に入ったことがあるので、どこに行ってもあまり怖いという感覚がなく、もっと知りたい、何があるのだろうという気持ちの方が勝ってしまうんです。ボロディアンカの悲惨な画を見た時も「こんなの嫌だ」という風にならなくて、「どうしてこうなったんだろう」と。
それを知りたい、誰が撮ったの?何なの?ということを知りたい。細部の出来事を知りたい思いが強いですかね。高い理想があってやっているわけではないですが、やはり「これは何なんだろう」と思うじゃないですか。分からないからそのままにしておけなくて。

(C)『犬と戦争』製作委員会
私も驚きました。野良犬たちは体格も良いんですよね。ウクライナは農業国なので、国土が広いこともあって、動物と人間の距離が近いのだと思います。人間が来ても逃げないし、耳にイヤータグを付けているのですが、あの街だけで約500匹いると聞きました。レストランに犬が入ってきても誰も驚かない。動物と人間の距離が近いのだと思います。
日本の動物愛護法の場合、猫は地域猫として生きていけますが、犬の場合やっぱり狂犬病予防法があるため、1回捕まえて元の場所に放すことが法的にできません。日本は、衛生管理を徹底している国なので難しいだろうなとは思いますね。法的機関でも一部の動物愛護センター、動物愛護団体などと協力して、安価で手術を行うところはあります。

私たちがやっているハナコプロジェクトは行政のお手伝いをしているので、多頭飼育崩壊が起きた場合、飼い主さんが手術できない時に獣医さんの派遣を行って費用を負担するという形です。
――戦争や震災が起きた時にこの活動が定着化していると、どうしても置いていかなければならない時に繁殖してしまうということも防げますよね。
そうですね。東日本大震災の時は繁殖してしまってましたね。
――ウクライナだと避妊・去勢手術が定番化しているから戦争になった時も保護した犬の手術をしなければならないということが少なそうですよね。
手術済みの犬が多いです。ほとんどですね。
▼山田あかね監督が代表を務める「ハナコプロジェクト」の詳細はこちら
https://hana-pro.com/

(C)『犬と戦争』製作委員会
多くの犬が命を落としたボロディアンカのシェルターに最初に駆けつけたのがウクライナのフボスタタ・バンダという愛護団体のメンバーで、その1人のアナスタシアは、ごく普通の犬が好きなボランティアでした。シェルターを少し手伝っているという人だったのですが、犬たちが閉じ込められた悲劇的な事件があり、その場に駆けつけられなかったことで多くの犬が命を落としてしまった。
同じようにウクライナの様々なところが戦地になって、そこでまた動物が閉じ込められているのではないか、置き去りにされているのではないかと思うようになって、救援物資を送ったり、チームのメンバーと現地に行って助けられる犬を助けようという風にすごく変わったんですよね。普通の女の子があの事件を経て、しっかりとした動物愛護団体になって活動している。戦争はひどい目に遭って気持ちが落ち込んでしまい精神的に不安定になる人もたくさんいると思うのですが、戦争によって強くなっていく。
人に頼っていては犬の命が失われてしまうと思い、自分でやるようになったように、戦争によって強くなる人がいるのだなというのが印象的でした。

(C)『犬と戦争』製作委員会
私が行ったシェルターでは、攻撃的な犬は見なかったです。「助けてくれてありがとう」というフレンドリーな雰囲気でした。ただ、爆撃を受けたゴストメルでは精神が乱れた子がいたという話は聞きましたが多くはありません。
――映像を観るとシェルターで楽しそうに走り回っている犬が多かったですよね。
人間はミサイルが落ちたとなると気分も落ち込み、世界の終わりのように感じてしまいますが、犬はご飯も水もあって走れる、今日を楽しく生きるという姿が人間とは違いました。
犬は強いですね。

(C)BREAKING THE CHAINS
犬は人間が怪我をしていても関係なく寄り添うのでみんな犬に手を伸ばします。何をするわけでもなく犬にさわりながら周りの人と会話が生まれていました。皆さん、戦争の話はしたがらないので犬の話をして笑っていました。その中で少しずつ気持ちが楽になっていくように感じましたね。
――映画にもありましたが、日本のメディアでウクライナの犬たちの状況があまり伝えられないのは、日本の動物福祉の概念が根付いていないということも影響していると感じました。この点についてはいかがですか?
日本は、人間の方が大事だという想いがすごく強いですね。ヨーロッパだと人間が動物をきちんと管理しなければという想いが強いから動物を助ける行動をしても違和感を抱く人はいないし、避難所にも入れる。そこは違いかもしれないですね。

(C)『犬と戦争』製作委員会
この映画は、動物を助けている人の話ですが、助けている人も含めて、人間がいかに動物に助けられているかを感じました。動物救助隊のトムもPTSDから復活できたのは犬のおかげだと言っています。それがきっかけで彼は激戦地に行っていますが、自分は動物を救うことが使命だと思うことで、自分を支えてるんだなと思います。
人間同士ではどうしても癒やすことができないような部分を動物が助けている。戦争だからこそ、人間が起こした最悪の事態だからこそ逆に動物が必要、犬猫が必要なんだなと思いました。

(C)『犬と戦争』製作委員会
今回の取材は行くかどうか迷ったんですよね。戦禍とはいえ怖い出来事がなかったという点もありますが行って良かったと思います。
以前、東日本大震災でも福島第一原子力発電所20km圏内の近くまで取材に行きましたが、やはり被爆したらと考えてしまって行くのをやめたことがありました。でも、翌日から制限区域になってしまい撮影で入れなくなってしまったということがあり、それ以降は迷ったら行くと決めています。ウクライナも迷っても撮影に行ったことでこの映画が出来上がったのだと思いますね。
――犬や猫をテーマにした次回作を作りたいというお考えはありますか?
動物救助隊のトムの活動については、今回の映画の中ではほんの一部だったので彼をちゃんと撮りたいという思いはあります。
映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』(G)は、シアターキノで3月14日(金)まで絶賛上映中。本作には、戦争直後の映像や危険な状況に置かれている動物の映像もあるのでご留意ください。
早川真澄
ライター・編集者
北海道の情報誌の編集者として勤務し映画や観光、人材など地域密着の幅広いジャンルの制作を手掛ける。現在は編集プロダクションを運営し雑誌、webなど媒体を問わず企画制作を行っています。