(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会
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2025.6.9

燃え上がる正義の裏で、消された真実と壊された人生。綾野剛主演『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』

報道が人を壊してしまう瞬間が、たしかにある。それは決して特別な出来事ではなく、日常の中に潜む、“言葉の暴走”です。
映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』は、20年前に実際に起きた教育現場での事件をもとに、報道、教育、家庭、そして「空気」がひとりの教師を社会から排除していく過程を描いています。
この映画は、私たちが見逃してきた“現実”の再現であり、静かな警鐘でもあります。

詳しいあらすじ・キャスト情報はこちらもチェック
▼『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』試写会レビュー記事

(text|早川真澄)
 

真実を主張することが、罪とされた日


(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

2003年、小学校教諭・薮下誠一(綾野剛)は、児童への“体罰”を理由に、母親の律子(柴咲コウ)から告発されます。
この事件に目をつけた週刊春報の記者・鳴海三千彦(亀梨和也)は、彼を「殺人教師」として実名で報じ、世間はその見出しに飛びつきました。
学校も社会も、彼を守ることなく、沈黙の中で孤立へと追い込んでいきます。

唯一、彼のそばにいたのは妻・希美(木村文乃)。
妻の言葉が、やがて薮下に“語る覚悟”を与えることになります。そして彼はついに法廷で静かに言葉を発しました。「すべて事実無根の“でっちあげ”です」と──。

無実を訴えても、誰も聞こうとしないという恐怖

薮下誠一は、何度も静かに、そして誠実に無実を訴えます。怒鳴ることもなく、ただ事実だけを伝えようとする姿は、真実味を帯びて見えました。

けれど、彼の言葉を「聞く耳」はありません。
すでに「加害者」という空気が出来上がっていたからです。

児童の証言が絶対視され、母親の涙が正義となり、報道が煽る──社会は“考える”ことをやめ、“信じたい物語”に身を委ねていきます。

わかりやすさが求められる中で、沈黙は罪とされ、反論は敵意と見なされる。
彼は、「誰にも届かない声」を語り続けるしかない存在にされていきます。

(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

報道は「言葉」を放つ。だが、その先までは想像しない─“報道の途中下車”が壊すもの


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「殺人教師」の見出しは、多くの人の関心を集めました。けれど、結末を覚えている人は、どれだけいるでしょうか?真実が明らかになったとき、報道も社会も、すでに次の話題に移っている...。

この映画が突きつけるのは、「報道の自由」ではなく、「報道の責任」です。
記者・鳴海三千彦(亀梨和也)は、母親の証言だけを信じて記事を書き、拡散します。
教師を追い詰める彼の冷徹な表情こそが、冷静さを装いながら、正義を商材に変える者の恐ろしさを象徴していました。

「語れなかった男」が言葉を取り戻すまで─妻の覚悟が導いた静かな反撃

 綾野剛が演じるのは、声を荒げて自らを弁護することのない教師。優しさゆえに全てを自分の中で抱え込み、自分の主張を絞り出すようにしか語れない男です。
けれど、法廷という場で彼はついに“語る”決意をします。

その背中を押したのが、木村文乃が演じる妻・希美でした。
「あなたの味方だから」というそのひと言は、ただの慰めではなく、戦う覚悟そのもの。家族としての尊厳を守るための強い宣言です。
その言葉に支えられ、教師は“沈黙する人”から“真実を語る人”へと変わっていきます。
彼の証言には、信頼のなかで取り戻された人間の尊厳が宿っていて、思わず拳を握りしめていました。

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観る者を試す映画──私たちは“語る責任”を背負えるのか?


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この作品が突きつけるのは、報道機関の“暴走”ではありません。
むしろ「知ったふりで語る」「聞こうとしない」「見出しだけで判断する」――そのすべてが、私たち自身の内にある“加害”です。

「報道の自由」とは何か。
それを享受する側に、どれだけの想像力と責任が求められるのか。
映画を観終えたあと、私たちは“何を語るか”という問いを、静かに突きつけられます。

映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』の基本情報

■公開日:6月27日(金)

■出演:綾野剛、木村文乃、柴咲コウ、亀梨和也 ほか

■監督:三池崇史

■原作:福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』

■配給:東映

■公式サイト:https://www.detchiagemovie.jp/

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真実を主張することが、罪とされた日


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2003年、小学校教諭・薮下誠一(綾野剛)は、児童への“体罰”を理由に、母親の律子(柴咲コウ)から告発されます。
この事件に目をつけた週刊春報の記者・鳴海三千彦(亀梨和也)は、彼を「殺人教師」として実名で報じ、世間はその見出しに飛びつきました。
学校も社会も、彼を守ることなく、沈黙の中で孤立へと追い込んでいきます。

唯一、彼のそばにいたのは妻・希美(木村文乃)。
妻の言葉が、やがて薮下に“語る覚悟”を与えることになります。そして彼はついに法廷で静かに言葉を発しました。「すべて事実無根の“でっちあげ”です」と──。

無実を訴えても、誰も聞こうとしないという恐怖


(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

薮下誠一は、何度も静かに、そして誠実に無実を訴えます。怒鳴ることもなく、ただ事実だけを伝えようとする姿は、真実味を帯びて見えました。

けれど、彼の言葉を「聞く耳」はありません。
すでに「加害者」という空気が出来上がっていたからです。

児童の証言が絶対視され、母親の涙が正義となり、報道が煽る──社会は“考える”ことをやめ、“信じたい物語”に身を委ねていきます。

わかりやすさが求められる中で、沈黙は罪とされ、反論は敵意と見なされる。
彼は、「誰にも届かない声」を語り続けるしかない存在にされていきます。

報道は「言葉」を放つ。だが、その先までは想像しない─“報道の途中下車”が壊すもの


(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

「殺人教師」の見出しは、多くの人の関心を集めました。けれど、結末を覚えている人は、どれだけいるでしょうか?真実が明らかになったとき、報道も社会も、すでに次の話題に移っている...。

この映画が突きつけるのは、「報道の自由」ではなく、「報道の責任」です。
記者・鳴海三千彦(亀梨和也)は、母親の証言だけを信じて記事を書き、拡散します。
教師を追い詰める彼の冷徹な表情こそが、冷静さを装いながら、正義を商材に変える者の恐ろしさを象徴していました。

「語れなかった男」が言葉を取り戻すまで─妻の覚悟が導いた静かな反撃


(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

 綾野剛が演じるのは、声を荒げて自らを弁護することのない教師。優しさゆえに全てを自分の中で抱え込み、自分の主張を絞り出すようにしか語れない男です。
けれど、法廷という場で彼はついに“語る”決意をします。

その背中を押したのが、木村文乃が演じる妻・希美でした。
「あなたの味方だから」というそのひと言は、ただの慰めではなく、戦う覚悟そのもの。家族としての尊厳を守るための強い宣言です。
その言葉に支えられ、教師は“沈黙する人”から“真実を語る人”へと変わっていきます。
彼の証言には、信頼のなかで取り戻された人間の尊厳が宿っていて、思わず拳を握りしめていました。

観る者を試す映画──私たちは“語る責任”を背負えるのか?


(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

この作品が突きつけるのは、報道機関の“暴走”ではありません。
むしろ「知ったふりで語る」「聞こうとしない」「見出しだけで判断する」――そのすべてが、私たち自身の内にある“加害”です。

「報道の自由」とは何か。
それを享受する側に、どれだけの想像力と責任が求められるのか。
映画を観終えたあと、私たちは“何を語るか”という問いを、静かに突きつけられます。

映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』の基本情報


(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

■公開日:6月27日(金)

■出演:綾野剛、木村文乃、柴咲コウ、亀梨和也 ほか

■監督:三池崇史

■原作:福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』

■配給:東映

■公式サイト:https://www.detchiagemovie.jp/

早川真澄

ライター・編集者

北海道の情報誌の編集者として勤務し映画や観光、人材など地域密着の幅広いジャンルの制作を手掛ける。現在は編集プロダクションを運営し雑誌、webなど媒体を問わず企画制作を行っています。

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