2025.12.7

北広島市の中学生と語る戦争の記憶。『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』原作者・武田さんが語る制作の原点

12月1日(月)、北広島市の北広島市立東部中学校で、映画『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』公開を記念したトークイベントが開かれました。北広島市は広島県・東広島市と姉妹都市提携を結び、生徒同士の交流や平和学習を重ねてきた地域でもあります。そうした“平和を学ぶ土壌”の中で開かれた今回のイベントには、原作・共同脚本を務めた北海道岩見沢市出身の武田一義さんが登壇。生徒たちと作品制作の背景について語り合う貴重な時間となりました。
 

戦争を知らない世代が“リアル”を描くために


(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー一楽園のゲルニカー」製作委員会

武田さんが原作漫画を描き始めたのは約10年前。当時は戦争の体験者がまだ数名存命で、直接話を聞くことができたと言います。自身も戦争を知らない世代であるため、現地を訪れたり、体験者から話を聞いたりと、取材を重ねながらリアルな描写を追求。

その間、多くの体験者が亡くなり、戦争の“生の体験”が失われつつある現実がありました。「体験者の方々の代わりに伝えられれば」という思いが作品制作を支えていると語ります。

映画化が決まった際は「とても嬉しかった」と述べつつ、制作の大変さも実感していたといいます。それでもスタッフが尽力し、多くの人に届けられる作品になったことへの感謝を繰り返しました。

90代の体験者が見せた“涙”と“ユーモア”

体験者は取材当時すでに90歳を超える高齢者。話の中にユーモアを交え、聞き手への気遣いを見せる一方、戦友を亡くした話になると感情があふれ、涙を流す姿にふれる場面もあったと言います。

こうした“生の感情”に触れられる機会は今後ますます少なくなるため、「作品がその感情を伝える役割を担っていくのでは」と武田さんは語りました。

田丸と吉敷を“動かす声” キャスティングの舞台裏


(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー一楽園のゲルニカー」製作委員会

主人公・田丸役は板垣李光人さんが担当。武田さんは板垣さんのYouTubeを見て、声が田丸のイメージに近いと感じ、自らプロデューサーに推薦したというエピソードを教えてくれました。

吉敷役は中村倫也さん。戦場での強さと、もし戦争がなければ家族と農業に励んでいただろうというキャラクターの二面性を、中村さんの温かくかっこいい声が表現していたと語ります。

アフレコにも立ち会った武田さんは、声優陣の作品への理解が深く、準備が徹底されていたため、口を挟む必要はほとんどなかったと言います。

また、板垣さんは役作りのためペリリュー島を訪れており、その真摯な姿勢に武田さんは大きな信頼を寄せていました。

“功績係”に託したメッセージ


田丸の任務である“功績係”は、仲間の死を勇敢なものとして脚色し、遺族へ伝える役割。武田さんはこの設定に「情報はすべて真実ではない」というテーマを込めたと言います。

SNSやニュースなど、真偽がわからない情報にふれる機会は誰にでもあります。武田さんは、「もしかしたら嘘かもしれない」という距離感を忘れず、情報を一歩引いて受け取る姿勢の重要性を語りました。
 

(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー一楽園のゲルニカー」製作委員会

生徒からの質問で深まった作品の理解

トークの後半では、生徒からの質問を受け付けるティーチインを実施。作品の題材選びからキャラクター設定まで、制作の裏側に踏み込んだ質問が次々と飛び、武田さんが一つひとつ丁寧に答える時間となりました。

──なぜペリリュー島を題材にしたのですか?

ペリリュー島を題材にした理由は“偶然の縁”。生還者に長年寄り添い、戦中・戦後の歩みを追ってきた研究者と出会い、その人物から詳しい話を聞く機会を得たことがきっかけとなったと教えてくれました。

──どのように調査を進めたのですか?

証言のほか、武田さん自身もペリリュー島に赴いて調査を行ったと言います。島には戦争当時の戦車や戦闘機の残骸、不発弾が残り、80年経っても処理が続いている現状を目にしたと言います。
──作品を通じて1番伝えたいことは何ですか?

戦争中のリアルなディテールを伝えること。戦争が遠い存在になるほど、観念的な語りだけが残り、実態が失われていくことへの危機感があると言います。

──吉敷をどのようなキャラクターとして描いたのですか?

田丸と吉敷は、最初から“2人で主人公”として構想されたと原作者の武田さんは言います。
田丸は出来事を見つめる“静”の主人公、吉敷は行動し物語を動かす“動”の主人公。この対比が物語の軸を形成しています。

生徒たちが語る作品から得た学びと平和への想い


インタビューに答えてくれた北広島東部中学校の生徒たち

イベント後に生徒へ感想を聞いたところ、田丸と吉敷という対照的な主人公へそれぞれ共感が寄せられました。
田丸については「勇気が出なくて動けないところが自分と似ている」という声があり、吉敷に対しては「田丸を引っ張っていく姿に憧れた」という言葉が聞かれました。

また、この作品を誰にすすめたいかという質問には、「同じ世代の人に見てもらいたい」という意見が挙がり、戦争を題材とした作品に触れることで「自分ならどうするか考えられる」と話す生徒もいました。

若い世代にできることについては、「戦争は良くないと常に意識したい」「戦争を経験していなくても伝えることはできる」といった声のほか、「戦争のない日常は当たり前じゃなくて奇跡だと思った」という気づきも語られていました。

映画『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』の基本情報

キャスト:板垣李光人/中村倫也
     天野宏郷、藤井雄太、茂木たかまさ
     三上瑛士

主題歌:上白石萌音「奇跡のようなこと」(UNIVERSALMUSIC / Polydor Records)

原作:武田一義「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」(白泉社・ヤングアニマルコミックス)

監督:久慈悟郎

脚本:西村ジュンジ・武田一義

公式サイト:https://peleliu-movie.jp/

(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー一楽園のゲルニカー」製作委員会

戦争を知らない世代が“リアル”を描くために


(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー一楽園のゲルニカー」製作委員会

武田さんが原作漫画を描き始めたのは約10年前。当時は戦争の体験者がまだ数名存命で、直接話を聞くことができたと言います。自身も戦争を知らない世代であるため、現地を訪れたり、体験者から話を聞いたりと、取材を重ねながらリアルな描写を追求。

その間、多くの体験者が亡くなり、戦争の“生の体験”が失われつつある現実がありました。「体験者の方々の代わりに伝えられれば」という思いが作品制作を支えていると語ります。

映画化が決まった際は「とても嬉しかった」と述べつつ、制作の大変さも実感していたといいます。それでもスタッフが尽力し、多くの人に届けられる作品になったことへの感謝を繰り返しました。

90代の体験者が見せた“涙”と“ユーモア”

体験者は取材当時すでに90歳を超える高齢者。話の中にユーモアを交え、聞き手への気遣いを見せる一方、戦友を亡くした話になると感情があふれ、涙を流す姿にふれる場面もあったと言います。

こうした“生の感情”に触れられる機会は今後ますます少なくなるため、「作品がその感情を伝える役割を担っていくのでは」と武田さんは語りました。

田丸と吉敷を“動かす声” キャスティングの舞台裏


(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー一楽園のゲルニカー」製作委員会

主人公・田丸役は板垣李光人さんが担当。武田さんは板垣さんのYouTubeを見て、声が田丸のイメージに近いと感じ、自らプロデューサーに推薦したというエピソードを教えてくれました。

吉敷役は中村倫也さん。戦場での強さと、もし戦争がなければ家族と農業に励んでいただろうというキャラクターの二面性を、中村さんの温かくかっこいい声が表現していたと語ります。

アフレコにも立ち会った武田さんは、声優陣の作品への理解が深く、準備が徹底されていたため、口を挟む必要はほとんどなかったと言います。

また、板垣さんは役作りのためペリリュー島を訪れており、その真摯な姿勢に武田さんは大きな信頼を寄せていました。

“功績係”に託したメッセージ


(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー一楽園のゲルニカー」製作委員会


田丸の任務である“功績係”は、仲間の死を勇敢なものとして脚色し、遺族へ伝える役割。武田さんはこの設定に「情報はすべて真実ではない」というテーマを込めたと言います。

SNSやニュースなど、真偽がわからない情報にふれる機会は誰にでもあります。武田さんは、「もしかしたら嘘かもしれない」という距離感を忘れず、情報を一歩引いて受け取る姿勢の重要性を語りました。
 

生徒からの質問で深まった作品の理解

トークの後半では、生徒からの質問を受け付けるティーチインを実施。作品の題材選びからキャラクター設定まで、制作の裏側に踏み込んだ質問が次々と飛び、武田さんが一つひとつ丁寧に答える時間となりました。

──なぜペリリュー島を題材にしたのですか?

ペリリュー島を題材にした理由は“偶然の縁”。生還者に長年寄り添い、戦中・戦後の歩みを追ってきた研究者と出会い、その人物から詳しい話を聞く機会を得たことがきっかけとなったと教えてくれました。

──どのように調査を進めたのですか?

証言のほか、武田さん自身もペリリュー島に赴いて調査を行ったと言います。島には戦争当時の戦車や戦闘機の残骸、不発弾が残り、80年経っても処理が続いている現状を目にしたと言います。
──作品を通じて1番伝えたいことは何ですか?

戦争中のリアルなディテールを伝えること。戦争が遠い存在になるほど、観念的な語りだけが残り、実態が失われていくことへの危機感があると言います。

──吉敷をどのようなキャラクターとして描いたのですか?

田丸と吉敷は、最初から“2人で主人公”として構想されたと原作者の武田さんは言います。
田丸は出来事を見つめる“静”の主人公、吉敷は行動し物語を動かす“動”の主人公。この対比が物語の軸を形成しています。

生徒たちが語る作品から得た学びと平和への想い


インタビューに答えてくれた北広島東部中学校の生徒たち

イベント後に生徒へ感想を聞いたところ、田丸と吉敷という対照的な主人公へそれぞれ共感が寄せられました。
田丸については「勇気が出なくて動けないところが自分と似ている」という声があり、吉敷に対しては「田丸を引っ張っていく姿に憧れた」という言葉が聞かれました。

また、この作品を誰にすすめたいかという質問には、「同じ世代の人に見てもらいたい」という意見が挙がり、戦争を題材とした作品に触れることで「自分ならどうするか考えられる」と話す生徒もいました。

若い世代にできることについては、「戦争は良くないと常に意識したい」「戦争を経験していなくても伝えることはできる」といった声のほか、「戦争のない日常は当たり前じゃなくて奇跡だと思った」という気づきも語られていました。

映画『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』の基本情報


(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー一楽園のゲルニカー」製作委員会

キャスト:板垣李光人/中村倫也
     天野宏郷、藤井雄太、茂木たかまさ
     三上瑛士

主題歌:上白石萌音「奇跡のようなこと」(UNIVERSALMUSIC / Polydor Records)

原作:武田一義「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」(白泉社・ヤングアニマルコミックス)

監督:久慈悟郎

脚本:西村ジュンジ・武田一義

公式サイト:https://peleliu-movie.jp/

早川真澄

ライター・編集者

北海道の情報誌の編集者として勤務し映画や観光、人材など地域密着の幅広いジャンルの制作を手掛ける。現在は編集プロダクションを運営し雑誌、webなど媒体を問わず企画制作を行っています。

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